彼は、英雄とは呼ばれずに

文字数 2,434文字

トド 様作

あらすじ引用
後に世界の命運を賭けた戦いに身を置く、その少年は、しかし英雄と呼ばれることはなかった。
これは、英雄譚ではない。
これは、一組の男女の長き縁の物語。
第一章:エルマイラムの冒険者
エルマイラム王国の首都ナイムで起こった連続通り魔事件の謎を追う話。

第二章:その出会いに、名をつけるのならば
ヒロインと主人公の出会いのエピソード。

第三章:誰がために、彼女は微笑んで
突如主人公のもとにやってきた護衛依頼。
けれど、それは多くの人間の思惑が交差するものだった。


【簡単なあらすじ】
ジャンル:ハイファンタジー
平和だと思われた待ちで突如起こった、事件。初めは幻想や見間違いだと思われたが第二、第三の事件が起き自警団が動き出す。解決はするものの、それは一筋縄ではいかなかった。事件の後に起きた出来事と、真相とは?

【物語の始まりは】
ある一人の人物の想いから始まり、ある料理店へと場面が移っていく。しかしその店は、普段ならこの時間に開いていることはなかった。というのも、ある親子が何者かに襲われる事件がこの街で起きたからである。彼らを襲ったのは化け物というが、厳重な警備が為されているこの街でそのような事件が起きるはずがないと誰もが思っていた。だが第二、第三の事件が勃発。放っておけないと自警団も動き出したのだ。そんな経緯もあり、この店は普段なら開いていないはずの時間に、店を開けていたのである。果たして、事件の真相とは?

【舞台や世界観、方向性】
かつては冒険者というものが存在しており、未開の地や化け物と戦うものなどがいた。しかしそれから100年後の物語であり、伝承のみとなっている。
今でも魔物は存在する世界。

この物語での冒険者とは、未開の地などを旅し、冒険をしながら生計を立てる人間を指す。100年前には未開の地や伝説や伝承となる魔物も存在したようだが、その頃と比べると平和。その為かジェノの冒険者仲間の彼女が、冒険者となるまでは、街の外にはまだ魔物が存在することは知らなかったように感じる。

【主人公と登場人物について】
この物語は群像劇。
料理店は三人で切り盛りしており、ジェノという少年は料理屋のウエイターであり、冒険者でもあるようだ。物語はジェノの仲間の冒険者である女性の視点から始まり、ある自警団の男性の視点へと変わっていく。

自警団に所属する一人の少年(レイ)と冒険者仲間である女性(イルリア)の二人の視点から、一人の少年(ジェノ)について語られていく。
彼女からみるとジェノは、自分を含め人に心配をさせている印象。しかし自警団のレイの視点では、”何を考えているのか分からない”愛想のない人物という印象を持っている。タイトルにある”彼は、英雄とは呼ばれずに ”の彼が誰を指しているのか現時点(27ページ)では推測の域を出ないが、二人の視点から語られる冒険者、ジェノのことではないだろうか?

【物語について】
ジェノの冒険者仲間の女性は、冒険者という職に対して良く思っていなかった。というのも冒険者とは未開の地などを旅し、冒険をしながら生計を立てる人間ではあるが、冒険者の英雄と名高い人物が生きていた頃から100年がたっており、様々な古代の魔法品や財宝が眠る神殿などは、この数百年でそのほとんどが発掘され尽くしてしまったからである。
彼女にとって冒険者とは、”定職に就かずに叶いもしない夢を追っている馬鹿な人間というイメージ”だったからだ。しかしある事件が起き、そのイメージは変わったものの、良いイメージでないことは変わらなかった。

【良い点(箇条書き)】
・女性の観点と男性の観点との違いが良いと思った。
この物語で描かれている一部の女性は感情的であり、物事の本質が見えていない。そして逆に、男性の一部は本質を見抜いている。人間というものに、リアリティを持たせていると感じた。男女の区別というよりは、どちらの考え方を持つかによって、どちら側に賛同できるか変わる物語だと感じた。
・周りから理解されないジェノが不憫でならない。とても同情してしまう。物語が進むと、理解者もいるので、ホッとするが。
・この物語で一番共感できるのはジェノだなと感じた。
・それぞれの事情がある物語。誰が悪いとは言えない部分が複雑な気持ちにさせる。
・ヒューマンドラマ部分が深い物語だと感じた。

【備考(補足)】27ページまで拝読
【見どころ】
この物語は英雄譚ではない。あらすじにも書いてはあるが、あえて言いたい。
魔物も存在し、一部先天性の素質をもった魔法使いも存在するファンタジー世界だが、ヒューマンドラマである。心を抉るような物語だと感じた。
モンスターと戦い、仲間と絆を築き、魔王と戦う。そういう所にスポットをあてているのではなく、登場人物たちが、それぞれ自分自身と向き合っていく物語であるという印象を受けた。
そこには他者に対する憎しみや嫉妬など負の感情が渦巻いており、理解されない者もいれば、一方的な感情を向ける者もいる。人間の負の部分をこれでもかと突き付けられているような気持ちになる作品だと感じた。

それぞれに事情があり、抱えているものもある。そして考え方の違いにより、いがみ合ったりすれ違ったりもする。そして他人から見るとエゴでしかない部分も存在する。しかし彼らは”そこに生きている”と感じられるほどに、読者の心を抉っていくのである。好感を持つ人物もいれば、嫌悪してしまう人物も存在する。綺麗ごとではないからこそだと思った。
登場人物それぞれの性格が分かりやすく、どうしてそういう言動なのか? それは後から語られ、真実が明かされていく。その真実から登場人物に同情を抱くか、共感するか、嫌悪していしまうかは読み手のこれまでの人生経験や、性格、考え方によると思う。読む人によって感じ方の分かれる作品である。人間について、深く考えさせらえる物語であると感じた。
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