第1話 哀しみのない場所へ

文字数 1,554文字


エゾッチは文字通り、北海道(蝦夷)に住む青年である。北海道のことは今後蝦夷と呼ばせてもらう。エゾッチの爺やは蝦夷で1.2を争う超有名企業の会長である。

ある日、エゾッチは道を歩いていたところ、ヤンキー男とぶつかった。歩きスマホをしていたエゾッチも悪いが、ヤンキー男は故意にぶつかっているわけであるから、ややヤンキー男の方が悪い。しかし、歩きスマホで命を失う場合だってあるわけだから、エゾッチには今後、気を付けてもらいたい気持ちもある。

リーゼントとスカジャンが似合うヤンキー男は言った。「やいやいやい、どこを見て歩いてやがるんだよ?クソガキが!」餓鬼と呼ばれるほど若くはないエゾッチであるが、面倒は嫌いだ。「すみませんでした。」とすかさず謝った。

しかし、「謝って済むなら警察はいりまへん」と最近めっきり聞かなくなった有名なセリフをいけしゃあしゃあと口にしたヤンキー男はエゾッチの左頬をグーで殴った。

「ギャフ!」と人に殴られたことがないエゾッチは尻餅をついた。泣き出しそうになる。エゾッチは甘やかされて育ったのだ。

「今後は気をつけろ!餓鬼が。俺を誰だと思ってやがる」とヤンキー男は気が済んだようで立ち去ろうとした。そこで、エゾッチは声をかける。せっかく尻餅をついたわけだからただでは立ち上がらないのが、エゾッチだ。「すみません。今後気を付けます。今回のことを忘れない為にお名前聞いてもいいですか?」

ヤンキー男は悪い気はしていないようで「富永ゾンペイだ。獄龍會のホープだよ」と、聞いてもいないことまで口にした。どうやら裏社会の人間であるようだ。

帰宅したエゾッチは早速爺やにこのことを報告した。高層ビルがまるまるエゾッチの家であり、部屋の数は120部屋を超えている。今日は57階の部屋で夕食を取っており、87人の召使いが入れ替わり立ち替わりでエゾッチ達の世話をしている。

今日はまず魚料理の「オマールブルーのソテー 野菜添え クリーミーなソースアメリケーヌ」を食したエゾッチは続けて、肉料理の「特選和牛フィレ肉のパイ包み焼き“ウエリントン風”」。を食した。

その料理に結婚式を思い浮かべ、涎が落ちそうになった作者であるが、エゾッチは食べ飽きている様子だ。

次の日、爽やかに目覚めたエゾッチは街に繰り出した。駅前通りを歩いていると、そこで、昨日のヤンキー男が待ち伏せていた。

どうやら土下座をしている。「昨日は誠に申し訳ありませんでした。「この若造が無礼を働いたようで申し訳ありません」親方風の出立ちの男も頭を下げている。獄龍會の若頭だという。

エゾッチは「気にしないでください。ただ今後はなるべく一般人にも横暴な振る舞いは控えてくださいね。私達一人一人の行動が世界を変えますから」とお伝えし、颯爽と図書館に向かった。

エゾッチは内心、キザなセリフを言ってしまったと思って苦笑いをしていたし、一度は言ってみたい台詞だったと満足もしていた。一方の若頭も「この餓鬼、調子に乗りおって」と苦虫を噛み潰したような気持ちを抱えていたが勿論声には出さない。これからも獄龍會とは色々ありそうである。

その日家に帰ったエゾッチを爺やは待っていた。爺やは「今日はどうだったかな?」と白々しく聞いた。エゾッチは「昨日の人達が謝りにきたよ」と伝えた。「何をしたの?」と聞いたところ、爺やは詳しく教えてくれた。

どうやら、昨日の夜中に、若い衆とヘリコプターに乗り、獄龍會の事務所を訪ねてガトリングガンを撃ちに撃ち、最後に手榴弾を投げ込んだ後にお手紙を添えたという。「孫が世話になった」というような内容の手紙だったらしい。

ちょっとだけ可哀想だなぁと思ったが、韓国ドラマが始まる時間だったので、シアタールームに入り、ドラマを観てから眠った。

今日も平和な1日だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み