行き違い
文字数 1,107文字
松本哲人が見つからない。王思玲もだ。
――話はついている。力足りぬなら、影添大社を頼れ
先生の命 だから、私は従う。そこを尋ねるため、人に見える姿になる。……裸はうまくないか。この国の今の服装にならないとな。三十半ばの白シャツの男性姿にしよう。言葉までは真似できないにしても。
昼間の人の世界。久しぶりだが変わったな。小さく弱い異形は居つけない。かわいそうに。
「私は何も聞いていない」
同類である男が応対してくれた。こいつは強い。私と対等かそれ以上。
「だがそいつらは知っている。人であった異形とは行き違い……なるほどな。どちらも執務室長が連れ帰るだろう。引き渡せばいいのか?」
私と男は影添大社の隣の公園にいる。子連れの母親が談笑している。学生であろう同じジャージ姿の娘達が、囲む歩道を何周もしている。
「その必要はない。すでに死んだか確認しただけだ」
自力で狩りを再開するだけだ。これしきの仕事によその力を借りるはずがない。
「その言葉通りにさせてもらう。では立ち去ってくれ。ここに長くいてほしくは……」
男の目がとまる。その先に若い女性が二人いた。私達へと歩いてくるけど。
「折坂さんも外出するのですね。でも暑いね」
短髪を明るく染めた一人が笑う。少し焼けた肌。大きな瞳。青空のような笑み。人ではあるが……。
もう一人の小柄な娘は黙っている。上目使い。警戒した眼差し。霞んだ魂。なのに護る者? 護られし者? こいつはどうでもいい。
「社に戻りな。私はあまりよろしくないものと話している」
折坂とはこの男の名か。それよりもこの娘は……。
「まじ? やば! ははは。コンビニ行ったらね」
娘達が並んで去っていく。小柄な娘は何かを握りしめているが、もう一人だけを目で追ってしまう。
「あの二人が外にいるときは小鬼が常に見張るのだが、お前を怖れたな」
折坂が嫌味に笑う。挨拶もせずに立ち去ろうとする。
「あの娘は青龍か?」
そんなはずないのに聞いてしまう。
折坂が振り返る。
「隣の娘が手にする法具が資質を隠しているのに、四神獣同士だと分かるのだな。あの娘は桜井夏奈という。たしかにいっとき龍だった。おそらくまた蛮龍と化すが、その時が来るまで私は狩らない」
また背を向けて歩きだす。
「この島々に良くはない存在だ。それの行きつくところは、この社への禍だ。次こそは我が主を説得する。……私は松本哲人の覚悟を嫌いではないが、世の水平の維持を妨げる存在になってきた。なので好きにしてくれ」
やはり龍か……。麗しき雌龍。ならば、この獣に喰わせるはずがない。早く標的に報いを与えて、我が妻にしたい。
次章「4.92-tune」
次回「日帰り香港でした」
――話はついている。力足りぬなら、影添大社を頼れ
先生の
昼間の人の世界。久しぶりだが変わったな。小さく弱い異形は居つけない。かわいそうに。
「私は何も聞いていない」
同類である男が応対してくれた。こいつは強い。私と対等かそれ以上。
「だがそいつらは知っている。人であった異形とは行き違い……なるほどな。どちらも執務室長が連れ帰るだろう。引き渡せばいいのか?」
私と男は影添大社の隣の公園にいる。子連れの母親が談笑している。学生であろう同じジャージ姿の娘達が、囲む歩道を何周もしている。
「その必要はない。すでに死んだか確認しただけだ」
自力で狩りを再開するだけだ。これしきの仕事によその力を借りるはずがない。
「その言葉通りにさせてもらう。では立ち去ってくれ。ここに長くいてほしくは……」
男の目がとまる。その先に若い女性が二人いた。私達へと歩いてくるけど。
「折坂さんも外出するのですね。でも暑いね」
短髪を明るく染めた一人が笑う。少し焼けた肌。大きな瞳。青空のような笑み。人ではあるが……。
もう一人の小柄な娘は黙っている。上目使い。警戒した眼差し。霞んだ魂。なのに護る者? 護られし者? こいつはどうでもいい。
「社に戻りな。私はあまりよろしくないものと話している」
折坂とはこの男の名か。それよりもこの娘は……。
「まじ? やば! ははは。コンビニ行ったらね」
娘達が並んで去っていく。小柄な娘は何かを握りしめているが、もう一人だけを目で追ってしまう。
「あの二人が外にいるときは小鬼が常に見張るのだが、お前を怖れたな」
折坂が嫌味に笑う。挨拶もせずに立ち去ろうとする。
「あの娘は青龍か?」
そんなはずないのに聞いてしまう。
折坂が振り返る。
「隣の娘が手にする法具が資質を隠しているのに、四神獣同士だと分かるのだな。あの娘は桜井夏奈という。たしかにいっとき龍だった。おそらくまた蛮龍と化すが、その時が来るまで私は狩らない」
また背を向けて歩きだす。
「この島々に良くはない存在だ。それの行きつくところは、この社への禍だ。次こそは我が主を説得する。……私は松本哲人の覚悟を嫌いではないが、世の水平の維持を妨げる存在になってきた。なので好きにしてくれ」
やはり龍か……。麗しき雌龍。ならば、この獣に喰わせるはずがない。早く標的に報いを与えて、我が妻にしたい。
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