『強い雨が降っていたから』

文字数 473文字




きっと雨音で目覚めたのだろう
強い雨が降っていた
まだ朝になるまえのころ

そっと目頭を指先で押さえると
薄闇の色が深くなり
雨音が近づいてくる

その音に追い立てられるかのように
頭は、凛と冴えていく
目は、まだ開けないでとまぶたに懇願している

そんなやりとりを笑うかのように
アスファルトや窓ガラスを打楽器にして
激しくリズムを打ち続ける雨

参りました、と
観念して電気を灯し眩しさに目を細める
枕もと、読みかけの単行本を手に取った

集中力の欠けたなかで読んでいると
新聞が届く音がした
強い雨だから いつも以上に感謝の気持ちが溢れる

以前新聞の投稿欄で読んだ記事を思い出す
年末 配達員に感謝の言葉と和菓子を新聞受けに置いておいたら
丁寧な感謝の絵手紙の返信が新聞とともに配達されたという話

届けられた新聞紙を取りに立ち上がり
一滴の濡れもないそれを手にする
朝からあたたかな気持ちにさせてくれる仕事ぶり

白湯をちびちび飲みながら
パラりパラりとめくっていると
インクと紙の匂いが立ち上がる

その空気に
頭とともにすっかり目も冴えてきて
私は朝食の準備を始める

いつのまにか雨音は静かな音色に変わっていた



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み