有識者は、所詮恵まれた育ちだらけなのだろう

文字数 2,218文字

 そして、有識者は、その状態をこう名付けた。

 Solituder:孤独者
 Neglect:無視
 Syndrome:症候群

 皮肉にも、略称はSNS。現実は孤独だからこそ、SNSに依存し、すべきことを無視する症候群。そう、有識者は名付けたのである
 子供を見ずスマホ画面ばかりを見つめる。子供を見守るべき目は画面ばかりを見つめ、聞こえている筈の耳に子供の声は届かない。スマホに依存し、視野は狭まり、耳も聞こえなくなる。手の平とそれ程変わらぬ画面に依存した結果がそれであった。
 成人した当人の視野が、どんなに狭くなろうが自己責任。しかし、不幸にもそんな人間の元に産まれた子供に罪はない。また、心理的な○待は、身体的な○待に比べて見つけられにくく、軽視もされる。何に関しても言えることだが、その被害に遭ったことの無い者はその辛苦を軽視する。恵まれて育った者には、無償の愛を注いだ者の存在がある。だが、愛を注いでくれる筈の相手に、ことごとく無視されたなら?
 それでも、「食事を与えられているなら十分」と突き放せるだろうか。無視されると言うことは、痛い、苦しい、辛い、そう言った訴えも無視されると言うことに通じる。これはもう、西洋の犬猫以下の扱いでは無かろうか?
 とは言え、ネグレクトをする側は無自覚である。そもそも、「意図的に無視する」と言う英語は「Ignore」である。「Ignore」でなく「Neglect」を使用した時点で、「無自覚な無視」を意味しているのである。
 ともあれ、幼児にとって頼るしかない親に無視される。それは意図的で有ろうが無かろうが辛いものである。辛いだけで済めばまだ良い。断続的な無視により、命を奪われることもあるからだ。
 それは、空腹の訴えを無視されたことによる餓死であるかも知れない。それは、喉の乾きを無視されたことによる枯死であるかも知れない。それは、暑さを無視されたことによる熱中症からくる死であるかも知れない。または、向かう場所を無視されたことで悪意を持つ誰かによる死であるかも知れない。
 なんにせよ、無視されていない子供に比べ、その危険性は須く高いだろう。そして、無自覚の無視である為に、無視をする当人に治そうとする意志はない。SNSに限らず、他の依存症にも言えることだが、当人に改善する意志がなければ快方に向かわない。無理に引き離したところで、別の害が生じることさえあるのだから。
 それ故、有識者達は気付かせる仕組みを考え始めた。しかし、子供に対してのアクセス制限はあれ、大人に対して他者が制限を出来るものか? 携帯会社は、どれだけ快適に、どれだけ沢山通信出来るかで争ってもいる。その会社に対して、「余りにも長い通信時間のユーザーに対し、警告や制限をしろ」と言い渡したとしてどうなるだろうか? そこからの抜け道は幾らでもあるし、何よりそれでは当人の意志で止めてはいないのだ。
 そうして、エスニックジョークで揶揄される様に、結論の出ないまま時は過ぎた。その間にも、子供らが無視される時間は増え続け、夏休みが近付くにつれ、子供へ危険も近付いてしまう。
 夏休み、それは地域差があれ、一ヶ月は学校が休みとなる。それは教師の目が届きにくい期間でもあり、給食も出なければ、時間割に従う必要もない期間である。その期間中ずっと、子供が無視され続けたら?
 子供は体が小さい分、大人に比べて体温調節が難しい。また、汗でどれだけ水分が失われるかも、体の小さい方が危険である。勿論、冷房に頼り切る必要もない。しかし、暑さによる体調不良に対応出来なかったら。
 その不安は的中した。体調不良で幼児が搬送される事例が増えたのだ。勿論、温暖化のせいもある。しかし、それを鑑みてさえも増えていた。
 元々、夏は子供の緊急搬送が増える。理由は暑いからだけではない。長期の休みを利用して、海に山に、普段は行かない場所へ行き、慣れない場所だからこその危険に見舞われる。
 遠出をしなくとも、バーベキューや花火で火傷をする危険もあるし、子供に解放された学校のプールですら危険をはらむ。夏場に増える危険を挙げればキリがない。しかし、それを自覚していない大人が居ることもまた事実だろう。
 ともあれ、注意していても起きてしまうのが事件や事故。だが、その注意がなされなかったら? それも、何が危険か分からない幼子に対して。
 夏のさかり、増えた子供の緊急搬送に不可解な現象が起こり始めた。確かに通報はなされ、その場所に、息も絶え絶えな子供が居た。しかし、近付くに大人の姿はなく、よって何が起きたか説明出来る者も居なかった。
 現場は困惑したが、詳しい状況は分からなくとも、息を荒くしながら倒れている子供が居る。それを助ける以外に優先すべきことはありはしなかった。意識レベルを確認しつつ救急車に乗せ、受け入れ先の病院へ運ぶ。後は専門家に治療を任せるしかない。その後に、子供に見舞いが来るかどうか、何時誰かからの助けが必要になるか分からない仕事では気にしてはいられない。一つ一つを気にしていたら、仕事が回っていかないのだから。
 しかし、通信記録と言うものがあるし、電話をかけられても体調不良から上手く話せない者も居る。だからこそ、どの辺りからかけられたか、番号は何か、それは調べようと思えば可能なことは知られたことだ。
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