拝啓、天国の雄星にいちゃんへ

エピソード文字数 1,235文字

……

 雄星から貰った手紙は恋文と呼べるモノではなかった。

 そもそも、字が汚くてほとんど読めやしない。

もういい。もういい、か……

 なのに、その文字だけははっきりと書かれていた。

 何度も何度も、繰り返し繰り返し、書かれている。

……ばか

 見当違いの言葉に詩羽は吐き捨てる。

 別に雄星の為に待っていたのではない。


 ただ、自分が成長したくなかっただけだ。


 周囲に大人を求められるのが嫌だった。

 制服を着て、女になっていく自分が怖かった。

私は羨ましいと思ってた。いつまでも子供でいられる雄星が。子供であることを許されている雄星が……

 でも、それは違った。

 一人で地面に落書きをしている雄星を見て、詩羽は思い知った。

 雄星に肩を貸して――その軽さに、自分の罪を気づかされた。

それでも、雄星は私にとって大好きなおにいちゃんだったから

 甘えたくなってしまった。

 それが自分勝手で酷い我儘だと知っていても、もう一度優しくして貰いたかった。 

 

 これが最後だと思うと――!

 

 つい、求めてしまった。

 最期なのは雄星のほうだったのに。

 本当は自分が与えるべきだったのに、雄星が変わっていなかったから――

でも、いい加減大人にならないと駄目なんだよね

 頼んだ通り、雄星の手紙には愛が溢れていた。

 幼い妹を心配する気持ちが、これでもかというくらい綴られている。

かわいい、うたは。小さなてのひら、にぎってあるいたまい日。

いつもまっていたうたは。ひとりでじめんにえをかいておれがくるとたのしそうにわらう。

ピーマンたべられる? よるにひとりでトイレにいける? ともだちできた? 

いっしょにいけなくなってごめん。ひとりでいかせてごめん。うるさいといってごめん。うたはのうたすきだった。またうたってほしい。うたはのうたをききたい。

じぶんのことしかかんがえていなくてごめん。もういいもういいもういいから。またなくていいからさきにいっていいからおいていっていいからもういいもういいもういいから。

しあわせになって。しあわせに。かわいいうたは。しあわせに

嘘でもいいから、好きとか愛しているって書いてくれればいいのに
 きっと、雄星にとって自分は年下の可愛い女のコでしかなかったのだろう。
でも、私が十六歳になるまで待ってくれたから許してやるか

 もっとも、ほとんど死んだような状態だった。

 現に、あれ以来一度も喋ることはできなかった。
 そうして、詩羽が十六歳の誕生日を迎えた次の日に雄星は死んでしまった。

よしっと

 詩羽は婚姻届けに二人の名前を書き、手紙の封筒に入れる。

 別に深い意味はない。

 ちょっとした悪戯心であり、自分が巣立つ為の儀式のようなものだった。

偽装完了
 この薄さなら中身をみられることなく、棺に入れて貰えるはず。
雄星にいちゃん。高校を卒業したら、ちゃんと大人になるから――

 それまでは、子供でいようと詩羽は誓った。

 だって、この制服は雄星を偲ぶ喪服となるのだから―― 

この服を着ている内は――卒業できないよね
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登場人物紹介

雄星(ゆうせい)。17歳だが、病気の為に中学校にすら行っていない。



詩羽(うたは)、まもなく高校生になる15歳。

雄星のお隣さんで妹分。


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