第114話  記念すべき一日 2

エピソード文字数 3,444文字

 

 ※


 部屋に戻ると、ただっぴろい部屋に布団が敷かれてるじゃないか。

 電気も消えて既に就寝モードとなっていた。


あんた。ここね。私は華凛ちゃんと寝るわっ
うん!

 すっかり聖奈に飼いならされてる華凛であった。


 まぁいい。黒澤家以外の人間にも心を開いている妹を見るだけでお兄ちゃんはとても嬉しく思う。


 白竹家も同じ布団で二人が寝てるし、仲がいいんだろう。

 そんな中、平八さんだけがただっ広い部屋の一番端で寝てやがる。

ってか。俺も平八さんみたいに離れた方がいいよな?

ほら。白竹さん二人もいるし

別に構わないよ。君が襲ってきても撃退するし
あぁそうかい。ってか俺はそんな野蛮な事はしません!
蓮君は大丈夫です~~超安全の草食系ですからね~~

 そうそう。美優ちゃんの言う通りです。

 まぁ向こうが嫌でなかったら、普通に寝させてもらいますよ。


 ふっかふかの布団に潜り込むのはいいのだが、聖奈華凛ペアや白竹姉妹も、小声で色々喋ってやがる。

 寝る気ねぇだろと思いながら目を閉じるのはいいのだが、昼頃から爆睡してたのもあり、中々寝つけない。




 暫くすると、周囲からは寝息が聞こえてくる。

 こっちを向きながら寝る聖奈は完全に落ちてると思った。

 天井を見上げながら、俺達はこれからどうなるのか考えていた。

 美優ちゃんと魔優。

 俺達と同じ入れ替わり体質の人間との付き合いが始まる事に、計り知れない安心と嬉しさもあった。


 だが親父の言う白竹ママだけは懸案事項だな。


 というのも、さっき白竹姉妹と話した中で、とんでもない事実を知ってしまう。

 白竹ママは入れ替わり体質の他にも……もう一つ能力がある。

 それは……学校でも見かけた魔優の正体が、本当に白竹ママだというのだ。


 完全コピーというか、どうやって美優ちゃんに成りすましたのかは姉妹も知らないらしく、ママにだけそんな特殊能力があるらしい。


 もし。美優ちゃんに成りすまされると、なんとなく色々されそうで怖い。

 何か判別できる方法があればいいのだが。


 というか、本当にマッチョなのか見てみたい気もするぜ。



 そんな時、布団をツンツンする感触がしたので、そちらの方向に顔を向けると……



 そこには美優ちゃ……あれ? 魔優か? どっちだよ。

 月明かりだけの薄暗い部屋の中、ニコっと笑顔を見せる彼女は、人差し指に唇を当てていた。

蓮くん。ちょっとだけお話いい?
はい……いいですよ。俺も寝つけなくて

 口調とその笑顔で分かる。これは美優ちゃんだ。


 俺は布団から出ると、美優ちゃんと一緒に忍び足で部屋を出る。

 長い廊下を歩いていくと縁側のような場所に出た。




 ※



魔優は女の子だよ。本当だよ
とは言いましてもね……ずっと男だと思ってましたから

 美優ちゃんと二人で月が見える縁側で話していた。

 

 最初は魔優の事についてだったが、こればかりは美優ちゃんに言われましても、中々判定は覆らない。

 とは言うものの、あいつがあれだけ否定するんだから、女として見ようとは思ってるけど。

本当なんです。魔樹はとっても女の子です。

中学校までは、とっても明るくて可愛くて、クラスでも人気者でした。

ほら、天真爛漫っていうじゃないですか? 本当にそんな感じで…・・・

マジですか? あいつが? 超明るいキャラだなんて……

だけど……私が……

私がこんなだから、魔樹は……

あいつ……
まぁでも。本人がそう思っているのは分かってますから、俺もあいつを理解しようと思ってます
 魔優もそれで納得してくれたしな

でもね。魔優は言ってました。蓮くんは良い人だって

正体を知る前からだよ。

ありがとうございます。俺だってあいつは良い奴なのは分かるし……

なんていうか。自分に似てる気がするんですよ

ふふっ。同じこと言ってたよ。さっき布団の中で喋ってたの

 だろうな。


 今日の事件で俺と魔優の共通点が多すぎる。

 俺もあいつの立場に立たされれば、同じような行動に出たに違いない。  


 

 家族を守ろうと言う気持ち。

 俺が華凛を守る気持ちと何一つ変わらない。

 あいつもきっと。美優ちゃんをずっと守ってきたのだろう。

ねぇ蓮君。私と魔優。似てる?
う~ん。性格は全然違いますよね

 見事に真っ二つ。だけど見分けがつかない容姿だったり。

 そういう意味ではやはり……二人とも苦労してきたのだろうか。

魔優は何でも出来る。でも私は……何も出来ない子
え? いや。そんな事ないでしょう?
勉強も出来ない。運動神経もダメだし、魔優みたいに強くない……良い所は全部……魔優が持ってる
そんな事はありませんって。美優ちゃんだって、絵がとっても上手いし、魔優と違って……とっても可愛いじゃないですか

 出来る魔優に出来ない美優ちゃんか。

 俺にはそんな風に思えないけどな。


 だが、どれだけ励ましても効果が感じられない。

 こりゃ相当なコンプレックス抱えてる感じがする。

あの……こうやって家族以外の人に喋るのって、本当に初めてなの。

だからごめん。変な事ばかり言ってしまって。そ、相当コミュ症だから

俺だって同じですよ。聖奈だってこんなに仲良くなったのは、高校入ってからだし……小学校からぼっち生活でしたからね

 学校の屋上で話し合った内容と同じだったが……


 今は状況が違う。だって……

 お互いがお互いの秘密を知っているのだから。 



 暫くしてから美優ちゃんは小さな声で告白した。

あの……正直言いますと、私も中学はまともに学校に行けなかった。

教室に入れなくて……職員室のとこで勉強してました

 美優ちゃんが先に切り出した。


 それはきっと……俺たちの秘密であった入れ替わり体質という壁を越えて、一歩進んできた。そんな風に感じたんだ。 

俺。実は……中学では楓蓮で学校行ってたんです。

親父に言って戸籍上の性別変えてもらってさ……

 こっちだって普通の人には理解できない話をしてゆく。
どうして女の子に?

ただ、友達が欲しかっただけなんですよ。

ほら。入れ替わりの人間って……友達作れないでしょ?


だから……女の方が作りやすいって思って……だけど。全然ダメだった

 かなり簡略化してるが。大体はあってる。


 俺が女で中学校に行ってた理由。

 それは友達が欲しかったからだ。それ以外に理由は無い。

そうだったんですね
思いっきり黒歴史です。これは聖奈も知らない話です
 そこまで話すと今度は美優ちゃんも告白する。

私はいつも……クラスの子に魔優と比べられて……それがつらくて。

偽物とかいっぱい言われた。


だけどいつも魔優が助けてくれて……でも大きくなるにつれて……

どうにかしなきゃいけないと思って。でも……何も出来なかった。

 これが美優ちゃんの深層にある感情なのだろうか。

魔優はね、私の為に男として学校に通うことにした。

そうすれば私が比べられることも無くなるからって。


私の為に魔優は……それが一番つらい。

本当は女の子なのに、女の子でいたいはずなのに……

 そういうことかよ……


小さい頃から友達なんて出来なかった。

魔優がたまに連れて来てくれたけど、私が上手く合わせられなくて迷惑ばっかり掛けてきた


私がダメダメだから、ついに魔優が女の子を捨てて……魔樹になった。

それが私……とてもつらくて。

そうでしたか……

 しかし……聞いてるこちらが滅入ってくるほどの話だな。

 俺だって割と闇歴史を抱えてると思ったが、美優ちゃんも相当なものだ。


 そんで魔優。

 お前のことは、一刻も早く理解出来るようにならなければ。

 

 魔優という人間は外部からすれば闇の部分。決して表に出てはならない。

 その事情を知ってるヤツが……あいつの事を男呼ばわりして良いはずがない!

ごめんね。こんな話ばかりで

いえいえ。実際こんな話なんて、軽々しく人に話せるものじゃないし、話す相手もいなかった。

でも……今日。こうやって美優ちゃんとお話できたのは、俺にとって……非常に重要な一日なのだと。そう思ってます

 平八さんがいった「記念すべき一日」という言葉。

 まさにその通りだと思うんだ。

全てを話せる人間が、また二人増えたんだ。俺はそれが嬉しくて……
私もすごく嬉しい。こんな気持ち。こんなにうれしい事なんて……もうずっと昔に感じたっきりです
 その時、美優ちゃんと目が合うと、同じタイミングで下を向いてしまう。


 同じように照れた表情を浮かべて……

――――――――――――――


次回、記念すべき一日 3 六章本編終了です


その後は白竹美優視点が1話。

おまけ話が3話。第二部に向けてのあとがきがあります^^

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色