第1話 寂しい休日

文字数 1,107文字

薄暗い部屋の壁に映る男の影は悲壮感に満ち溢れていた。頂点に上り詰めた彼はソファーにもたれかかり、心のこもっていない目で天井を眺めていた。天井には獲物を追いかける虎の姿が優雅に描かれている。

夢を追い求めていたあの頃が恋しい……

孤独を感じながら物思いにふけていた。

僕の人生を変えることになったあの日以降、頂点に上り詰めるためだけに生きてきた。苦しいトレーニングや食事制限、ボイストレーニング、演劇のレッスンなど全ての苦痛に耐えてきた。これらすべての苦痛に耐えることができたのは頂点から見える景色はさぞ美しく、心地よいもので、全てを手にすることができ、僕の心を満たすには十分だと思っていたからだ。

しかし、たどり着いた場所は孤独以外の何物でもなかった。

もちろん、道を歩いていると皆が僕に注目し、羨望のまなざしを受ける。また、世間からもチヤホヤされ、僕が口説いて落ちない女などいないだろう。ある一つを除けば全てを手に入れることができる。人間の承認欲求を満たすには十分だ。

以前とは違い、頂点に上り詰めた僕に純粋な気持ちで接してくれる人はいなくなった。親友や家族ですら僕に対する態度を変えた。皆、僕を見ているのではなく、頂点に上り詰めた「僕」を見ており、僕の背後にある地位や名声、お金しか見ていない気がする。心を開き本音で話せる相手などもはやなく、数少ない休みも家で孤独にお酒を飲んでいる。

こんなものを僕は追い求めていたのか……

薄暗い部屋で高級ワインを片手にテレビすらつけず、味わうこともなく、ただ黙々と飲んでいる。頂点を目指していた頃は皆でお酒を飲むのが楽しかった。夢を語り合っていたあの頃、まさか自分が一人で黙々と飲むようになるとは考えもしなかった。休日はいつも外で遊んでいたが、今ではこの有様である。

外は大雨が降っている。それに、部屋の電気は薄暗い。これらはまるで僕の心を表しているようだった。心の涙と暗い心。

頂点に上り詰めた25歳の僕。人生の目標を若くして達成した僕はどうするべきだろうか。明日はドラマ撮影の初日だが台本など一切読んでおらず、共演者すら知らない。今までは徹底的に打ち合わせをし、共演者はもちろんすべてのスタッフにまで気をかけていた。しかし、今回は全てマネージャーに任せっきりだ。このようなことが許されるのもきっと、頂点にいる間だけだろう。

時刻は21時、寝るにはあまりにも早すぎるが何もすることのない僕に選択肢はなかった。薄暗い廊下を歩きベッドルームのドアを開け布団に潜り込んだ。頂点に上り詰めた男の休日はなんて寂しいものだろうか。

僕は目を瞑り眠りについた。
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