第9話 のんちゃん
文字数 1,886文字
「ごめんね、おまたせ」
「ううん、全然待ってないよ」
駅を出たとこで立っていたら、待ち合わせ相手の、のんちゃんが小走りで駆け寄ってきた。
のんちゃんは、花音ちゃん。私の昔からの友達。明るくて元気な女の子だ。
「わあ、その子がせいちゃんだね」
「そうそう」
会う約束をするとき、前もって言っておいた。分体の女の子が一緒だけど、びっくりしないでねって。
「はじめまして、せいかです」
「はじめまして!」
のんちゃんが、せいちゃんの目線に合わせるように少し姿勢を低くする。左から見たり、右から見たり……なんか、めっちゃまじまじと観察してる。
「……やば」
「どしたの」
「めっっちゃかわいい」
「落ち着いて」
青天井に上がりそうなのんちゃんのテンションを、どうどうとなだめる。なんか、恥ずかしい。褒められているのはせいちゃんなんだけど、ねえ。
当のせいちゃんは、褒められてうれしそうだ。
「この髪、聖良がやってくれたの。服も一緒に選んだ」
自慢するみたいに、ふふんと編み込みを見せつける。のんちゃんも、「おおー」と感心したようにしげしげと観察する。
「とりあえず、喫茶店でも入らない?」
「あ、確かにそうだね」
駅前で立ったまま、ずっと動かないのもなんだしな、と思って提案したら、のんちゃんも賛成してくれた。私たちは、他愛もないようなことを話しながら、喫茶店へと歩いた。
「んー、うま」
新作のホイップラテを飲みながら、のんちゃんが歓喜の声を上げる。せいちゃんも、私の頼んだキャラメルのラテを飲んでいる。
「ね、せいちゃんにもあげていい?」
「ちょっとだけね」
どういう理屈か分からないが、飲みすぎると、私のお腹がちゃぷちゃぷになってしまうからね。
のんちゃんと会うのは、久しぶりだ。でも、変わらず楽しそうにするのんちゃんを見てたら、すごく安心する。
「ごめんね。ずっと、会うの、待っててくれてさ」
少し真面目なトーンで、改まって私がそういうと、のんちゃんはまっすぐにこちらを見つめた。それから、にっと口のはしを曲げて、いつもの、のんちゃんの笑顔を見せる。
「いいよ、気にしなくって。聖良と会えて、うれしいよ」
のんちゃんは、ずっと、私のことを気にかけてくれていた。メッセのやり取りで悩みを聞いたり、会うのも聖良のタイミングでいいよって言ってくれたりした。私は、のんちゃんに感謝しても、しきれない。
「ありがと。私もうれしい」
感謝の全部なんて、とても伝えきれないけど。言いたい言葉を伝える。そしたら、何だか気恥ずかしくなってしまったから、私はごまかすみたいにラテにそっと口をつけた。あまい。ほんのちょっぴりの苦みを感じて、それが逆に甘い部分を引き立ててる気がした。
「聖良とせいちゃんは、いつも一緒にいるんだよね」
「うん」
「どんなことするの」
「うーんとね、昨日は聖良とお散歩して、ピアノ弾いて、あ、あと寝る前に映画見たよ。あと聖良が勉強するの見てたり、お料理作るの見たりとか」
私の代わりに、せいちゃんが答える。
「へえー、なんか姉妹みたいだね」
「姉妹かあ」
「確かに! 聖良お姉ちゃんだね」
せいちゃんが、納得したように同意をする。お姉ちゃんって言われるとなんだかなあ、違うような気がするけれども。
「聖良お姉ちゃん、やさしい?」
「うん! とっても」
なあに、このやりとりは。
でも、せいちゃんにやさしいって思ってもらえてるなら、よかった。私は、せいちゃんから、たくさんのものをもらってるから。しあわせを、感じるから。
あれ。
しあわせ、かあ。
ふとよぎったその言葉は、私にとって想定外のものだった。
私の中で、消えかかってしまった燈火。ずっと、感じられなかった感情。
それが、ついと姿を現したのに気付く。
純粋で、やさしくって、かわいらしいせいちゃん。こんなになっても、変わらず、すっと大切な友達でいてくれるのんちゃん。
素敵な存在に囲まれて、助けられて、私は、今、生きてるんだな。
「聖良、どうかした?」
せいちゃんが横から、心配そうに、顔を覗き込んだ。
はっと我に返る。向かいで、のんちゃんも、じっとこちらを見つめていた。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してただけなの。ありがとね」
「そっか、大丈夫なら、いいんだけど」
少し心配そうなトーンの、のんちゃん。誤解させちゃったかもしれない。
「ほんとに大丈夫だよ。なんか、こういう時間好きだなって、思っただけ」
そういうと、のんちゃんは、ちょっと驚いたような顔をしてから――にぱっと笑った。
「私も」
それから、付け加えるようにいった。
「聖良のいつもの笑顔が見れて、うれしい」
「ううん、全然待ってないよ」
駅を出たとこで立っていたら、待ち合わせ相手の、のんちゃんが小走りで駆け寄ってきた。
のんちゃんは、花音ちゃん。私の昔からの友達。明るくて元気な女の子だ。
「わあ、その子がせいちゃんだね」
「そうそう」
会う約束をするとき、前もって言っておいた。分体の女の子が一緒だけど、びっくりしないでねって。
「はじめまして、せいかです」
「はじめまして!」
のんちゃんが、せいちゃんの目線に合わせるように少し姿勢を低くする。左から見たり、右から見たり……なんか、めっちゃまじまじと観察してる。
「……やば」
「どしたの」
「めっっちゃかわいい」
「落ち着いて」
青天井に上がりそうなのんちゃんのテンションを、どうどうとなだめる。なんか、恥ずかしい。褒められているのはせいちゃんなんだけど、ねえ。
当のせいちゃんは、褒められてうれしそうだ。
「この髪、聖良がやってくれたの。服も一緒に選んだ」
自慢するみたいに、ふふんと編み込みを見せつける。のんちゃんも、「おおー」と感心したようにしげしげと観察する。
「とりあえず、喫茶店でも入らない?」
「あ、確かにそうだね」
駅前で立ったまま、ずっと動かないのもなんだしな、と思って提案したら、のんちゃんも賛成してくれた。私たちは、他愛もないようなことを話しながら、喫茶店へと歩いた。
「んー、うま」
新作のホイップラテを飲みながら、のんちゃんが歓喜の声を上げる。せいちゃんも、私の頼んだキャラメルのラテを飲んでいる。
「ね、せいちゃんにもあげていい?」
「ちょっとだけね」
どういう理屈か分からないが、飲みすぎると、私のお腹がちゃぷちゃぷになってしまうからね。
のんちゃんと会うのは、久しぶりだ。でも、変わらず楽しそうにするのんちゃんを見てたら、すごく安心する。
「ごめんね。ずっと、会うの、待っててくれてさ」
少し真面目なトーンで、改まって私がそういうと、のんちゃんはまっすぐにこちらを見つめた。それから、にっと口のはしを曲げて、いつもの、のんちゃんの笑顔を見せる。
「いいよ、気にしなくって。聖良と会えて、うれしいよ」
のんちゃんは、ずっと、私のことを気にかけてくれていた。メッセのやり取りで悩みを聞いたり、会うのも聖良のタイミングでいいよって言ってくれたりした。私は、のんちゃんに感謝しても、しきれない。
「ありがと。私もうれしい」
感謝の全部なんて、とても伝えきれないけど。言いたい言葉を伝える。そしたら、何だか気恥ずかしくなってしまったから、私はごまかすみたいにラテにそっと口をつけた。あまい。ほんのちょっぴりの苦みを感じて、それが逆に甘い部分を引き立ててる気がした。
「聖良とせいちゃんは、いつも一緒にいるんだよね」
「うん」
「どんなことするの」
「うーんとね、昨日は聖良とお散歩して、ピアノ弾いて、あ、あと寝る前に映画見たよ。あと聖良が勉強するの見てたり、お料理作るの見たりとか」
私の代わりに、せいちゃんが答える。
「へえー、なんか姉妹みたいだね」
「姉妹かあ」
「確かに! 聖良お姉ちゃんだね」
せいちゃんが、納得したように同意をする。お姉ちゃんって言われるとなんだかなあ、違うような気がするけれども。
「聖良お姉ちゃん、やさしい?」
「うん! とっても」
なあに、このやりとりは。
でも、せいちゃんにやさしいって思ってもらえてるなら、よかった。私は、せいちゃんから、たくさんのものをもらってるから。しあわせを、感じるから。
あれ。
しあわせ、かあ。
ふとよぎったその言葉は、私にとって想定外のものだった。
私の中で、消えかかってしまった燈火。ずっと、感じられなかった感情。
それが、ついと姿を現したのに気付く。
純粋で、やさしくって、かわいらしいせいちゃん。こんなになっても、変わらず、すっと大切な友達でいてくれるのんちゃん。
素敵な存在に囲まれて、助けられて、私は、今、生きてるんだな。
「聖良、どうかした?」
せいちゃんが横から、心配そうに、顔を覗き込んだ。
はっと我に返る。向かいで、のんちゃんも、じっとこちらを見つめていた。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してただけなの。ありがとね」
「そっか、大丈夫なら、いいんだけど」
少し心配そうなトーンの、のんちゃん。誤解させちゃったかもしれない。
「ほんとに大丈夫だよ。なんか、こういう時間好きだなって、思っただけ」
そういうと、のんちゃんは、ちょっと驚いたような顔をしてから――にぱっと笑った。
「私も」
それから、付け加えるようにいった。
「聖良のいつもの笑顔が見れて、うれしい」