第1回『お菊の皿』
文字数 3,994文字
☆
へえ、それがですね。
『お前さんは江戸の人なら番町の皿屋敷って知ってるかい』
と言われたんですよ。
そんなものは知らねえんで、
『知らねえ』
って言ったら
『なんだ知らねえのかい。それじゃ江戸っても在の方だろう』
って馬鹿にされたんですよ。
それで悔しくて隠居に教えて貰おうと来たんでさあ
そうか、お前さんたちは知らないか。
無理もない。あれはかなり昔のことだからなあ。
昔、番町に青山鉄山と言うお旗本が住んでいたんじゃよ。
ほれ、九段の坂を登ったあたりじゃよ。
そこにお菊さんという腰元がいたんじゃ。
それはそれは美しい人だったそうだ。
青山様のご自慢は十枚組の葵の皿じゃった。
これを扱っていたのがお菊さんじゃった
鉄山はお前が隠したのだろうと責めるが、お菊さんは知らぬ存ぜぬ。
終いには庭の井戸に吊るして鞭で責める。
それでもお菊さんは本当に知らないので答えようが無いと言う訳じゃ。
とうとう、刀でお菊さんをバッサリと斬り捨てて井戸に投げ捨てたのじゃ
ところがじゃ。
その次の夜から何処からともなく皿を数える声が聞こえるようになった。
『いちま~い、にま~い、さんま~い』
とな。
そして最後には
『きゅうま~い…………一枚足りない……』
と悲しく数えると言う事じゃよ。
しまいには毎夜、鉄山の枕元にお菊さんの幽霊が立ったそうだ。
さすがの鉄山も気が狂って自害したという事だそうだ。
お菊さんは今でも、毎夜悲しく皿の数を数えていると言う事じゃ
なんだ気が早いな。
じゃあこれだけは言っておくよ。
いいかい、皿の数を数えるのを九枚まで聴いたらいけないよ。
お菊さんの呪いで死んでしまうからね。
八枚でも寝込んだそうだから、六枚ぐらいまで聴いたら帰っておいで。
いいかい六枚だからね