第20話

文字数 1,360文字

「身震いされても困る物は困るのですが……、それにしても最近は何処も人手不足ですからなあ。我々も大変なんですよね」

 魔王軍も人手不足の波が押し寄せている、と。
 でも、魔王軍なんて魔族しかなれなさそうだけれど……。

「最近は求人サイトに求人票を出しているのですが、何だか上手くいかなくて」

 いや、求人票出しているんかい。
 何て感じに出しているのか気になって仕方がない。

「今はアットホームな現場などと書くとブラックだと思われてしまって敵いませんからねえ。ほら、給与とかどうなっているんですか? うちは一応大卒の給与はクリアしていますよ」
「初任給二十万円、各種手当付きとしているのだが」

 あー……。
 それって、時給換算したら、バイトと大して変わらないのでは?

「あとはどうです? 上司とかちゃんと仕事を把握していますよね?」
「え、えーとそれは……。ほら、ジブンゴト化って言うじゃないですか」
「ジブンゴト化?」
「つまり、自分の仕事は自分で把握しておけ、ということだ。管理もそうだが……、ただそれをしてしまうと仕事を後輩に押しつけて自分は定時ではいさよなら、みたいなことをしかねないからあんまり使い勝手が良いものではないのだ」

 何でそんなことに詳しいんでしょうね?

「それじゃあ、漆坂さんは部下の仕事量を把握していない、と」
「はい……」
「管理職ですよね?」
「はい……」
「管理職って、部下のことを管理して初めて管理職と名乗れますが」
「名ばかり管理職って居るじゃないですか……」

 あ、これ完全なブラックだわ。

「管理職になると残業代を支払わなくて良いから、企業としては願ったり叶ったりなのだよな。だから、企業によっては管理職になりたくない管理職未満のベテランが多数居るとも言われている。管理職の手当は当然付くが、仮に36協定ギリギリまで残業したとするならば、賃金の差が歴然だからな。上司は何か言われるかもしれないが」

 うわー……。
 法律的にそれセーフなんですか?

「セーフかアウトかと言うと完全にアウトだな。だが、それが罷り通っているんだから、日本の法律ってのも穴だらけだな。あ、一応言っておくが別にこれらのことが悪い訳ではないからな。これを悪用している企業が悪いのであって」

 まあ、それぐらいは何となく理解している。
 こっちだって社会人生活何年目だっけ? あんまり自分のことを覚えていないけれど、何年か社会人を経験していればそれぐらいの分別はつくし。
 ただまあ、一言だけ言わせてもらうと。

「……人間も魔族も、あんまり変わらないんですね……」

 びりびりーっ!
 で、電撃を浴びせられるのも何だか久しぶりなような気がする――!

「気のせいだ、気のせい。……全く、クライアントに対して何を言い出すかと思えば。流石にひどいと言えばそれまでかもしれないが。いやあ、すいませんね、漆坂さん。新人がこんな人間で。未だこっちの世界に入ってばかりですから、右も左も分からないんですよ」
「いや、別に良いですよ。懐かしいですねえ、昔の自分を思い出すようですよ!」

 昔の自分ってどれぐらい前なんだろう? 漆坂さん、見た目は若いけれど、魔族ってことはそれなりに年齢を重ねていたりするのだろうか? 漫画の知識だけれど、エルフなんかは何百年も同じ姿のまま暮らしていくらしいし。
 
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