第102話 船出:2025年5月

文字数 738文字

(洋子と大輔は、新婚旅行で、サントリーニ島に来ていた)

2025年5月。ギリシャ。サントリーニ島

「本当に綺麗ね」
「絵に描いたような風景だ」
「ここには、一度、どうしても来てみたったの。昔ながらの建物や生活が残っているでしょう」
「洋子も、案外、古風が好きなんだね」
「それに、ここは、船乗りの故郷でもあるの。コロンブスの時代の船乗りは、大洋に乗り出す前は、地中海を生活の場にしていたでしょう」
「本当に、穏やかで、綺麗な海だ。どうして、船乗りは、ここを捨てて、命の危険を顧みずに、ジブラルタルのヘラクレスの柱の外に行ったんだろう」
「あら、それは、起業家のいうことではないでしょう」
「それを言えば、洋子の方が、僕よりよっぽど冒険者だよ」
「あはは」
「あはは」
2人は、笑い合っていた。

洋子は、4月にユニバーサル・ジェンダー党の党首を辞任して、政治の世界から足を洗った。やっと、自由になるまとまった時間がとれたので、結婚して、新婚旅行に、ギリシャに来ていた。結婚式には、約束通り、ジャクリーヌを招待した。ジャクリーヌは、残念ながら、結婚式には、来られなかったが、招待をとても喜んでくれた。ジャクリーヌは、ネット動画で、リアルタイムにお祝いの祝辞をしてくれた。それから、洋子は、結婚式では、ひとつだけ、贅沢をした。ウェデイング・ドレスをムッシュ・ルソーにお願いしたのである。

洋子が政治の世界に入るきっかけをつくったのは、ジャクリーヌ・ルパンだった。ジャクリーヌに会わなければ、政治家になることはなかっただろう。
「ギリシャからの帰り路に、大輔と一緒に、パリに寄って、ジャクリーヌに、リアルで、政治家を辞めたことと、結婚の報告をしよう。ジャクリーヌもきっと喜んでくれるだろう」
そう、洋子は考えていた。
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