17:僕以外にトウカを知る人物

エピソード文字数 880文字



 放課後のことだった。

 トウカがボールペンを落としたというので、教室の床をはってさがした。

いつなくしたの?
わかりません。気づいたのがさっきというだけで
 学校でしか使っていないのなら、教室にあると思うんだけど。移動教室のときだったとしたら、探すのは大変だ。
 しばらく床をはっていると。

これ、あなたのでしょ?


 不意に、声が聞こえた。





 女生徒の足が見えて、僕は慌てて立ち上がる。

 左手に猫のパペットをはめた、おとなしそうな印象をうける女の子だった。

昨日落としたの見たよ。返すタイミングわかんなくて、遅くなってごめん
 ぱくぱく。
 左手のパペットの口が動く。本人の口は動かない。腹話術というやつだろうか。はじめて見た。右手には、ピンクのボールペンがあった。

それ、私のです
 少女がトウカにペンを返す。
えっと……


 僕は彼女の名前がわからず、反応に困った。



ノート、見ていい


 ぱくぱく。パペットが言う。

 クラスメート詳細を書いたノートを開く。

 ぱくぱく。パペットが言う。
 クラスメート詳細を書いたノートを開く。
 特徴的な娘だ。ちゃんと書いてあるはず。

 あった。


 犬塚サキ。いつも左手にパペットをはめていて、パペットを通して話す。


 とあった。
 僕が言うのもなんだけど、変わっている。

って、ちょっと待って!?

今犬塚さん、昨日落としたって言った?

言ったけど?


 パペットの口が動く。

 僕とトウカは顔を見合わせた。

トウカさんって、いつ転校してきたかわかる?
 僕が問うと、パペットがうなずいた。
何日か前。いっつも挨拶してるけど、ボクはちゃんと覚えているゾ
 まさかの、僕以外にトウカを知る人物の登場であった。



       ★☆★☆


 これは、心に傷を負った僕たちが、自分たちの存在証明をするために、映画をつくる物語。その記録。つまり、ドキュメント映画だ。

 ここまでがその序章。これから僕たちは出会い、知ることになる。サキさんの抱えた傷と、もうひとり、別の傷を持った少年のこと。

 自分たちを取り巻く環境、世界、トラウマ。そういったものへと、立ち向かう方法を。



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登場人物紹介

日高コウジ 中2 13歳




 小6の夏。遊びに出かけた矢先の交通事故の後遺症で、前向性健忘症になり記憶が24時間しかもたない。左腕の感覚がない。その事故で、一個下の妹をなくしている。自分が遊びに連れ出さなければ、妹は死ななかった。そう、自分を責めている。




「覚えているわけじゃないんだ。ただ、昨日の僕が君のことを書いていたから」



桜宮トウカ 中2 13歳




 24時間で相手の記憶から存在が消える。心に傷をおっているコウジたちだけは、彼女のことを覚えていられる。夜道で変質者に襲われ、暴れ、逃げ込んだ森で犯されそうになったところを近くの石で殴った。結果、殺してしまった。

 正当防衛であること、まだ未成年であることからあまり大事にはされなかったが、その事件がきっかけで、人の記憶から忘れられるようになった。記憶だけではなく、あらゆる記録、映像も消えてしまう

 事件の日、犯人の血を浴びた地蔵の呪いだと思っている。




「私は誰からも必要とされていない、幽霊なんです」




犬塚サキ 中2 13歳


 両親からの虐待の影響で、喋れなくなった。いつも左手にパペットをはめていて、パペットを通して演技する時のみ話すことができる。現在は親戚の家に引き取られている。いつも無表情。

『ボクは妖精の国から来た猫、キャットシーだゾ』

美森ハヤト 中2 13歳




 泥棒に姉を目の前で殺されている。犯人は警官に射殺された。そのトラウマから、自分を「世界征服を目論む組織から逃走した、選ばれし契約者」だと思い込んでいる。姉が殺されたのは組織のせいであり、それがきっかけで自分は逃げ出し組織に復讐を誓ったという設定に逃げ込み、なにも出来ず姉の死を見送ったという現実から、目をそらしている




「いいだろう! 貴様の計画に乗ってやる! この白滅の魔術師ホワイトヴァイス様に感謝するがいい!」



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