第18話 源氏とキセキの物語、天皇賞春は王様の命令!?(2)

文字数 1,736文字

2020年5月2日からのコミ○クマーケットが中止になり、出店予定のサークルが開催するエアコ○ケのチェックに忙しすぎたかと反省する。
だが、何か寂しい、リアルのイベントに思いを馳せる。
「本当は行きたかったんだよなぁ」
「そう、京都競馬場に行きたかったねぇ」
無観客の天皇賞を残念がるとタイプの音は止み、惠が呼応する。
「京都かぁ、せっかくなら宇治も行きたいわねぇ」
宇治は優と惠がファンであるアニメ化された小説の舞台の街だ。
「競馬場の最寄り駅、淀からだと京阪を中書島乗り換えで三十分くらいかな?」
経路を耳にした惠は一緒に宇治へ行きたいと思った、優を地図代わりとしてだが。
「京阪宇治駅、宇治橋、JR宇治駅、宇治橋通り」
惠が指を折りながら数えると、優もそれに習う。
「平等院表参道、あじろぎの道、喜撰橋、朝霧橋、観流橋」
「宇治神社、さわらびの道、宇治上神社」
『大吉山』
同時に山の名前を口にすると、惠が天井へと吹き出し、優が腹を抱えて床に大笑いして続ける。
「今年なら5月2日か4日に宇治で聖地巡礼、3日は淀で天皇賞観戦だね」
一日で両方は厳しいかもと優が日程を語り始める。
「コミ○クマーケットがちょうど2日から4日だよね。行く暇ないなぁ、実際は」
「実際ねぇ…」
優が天に向かって、吐息を吐く。
分かってはいるのだ。
競馬は無観客で何とか綱渡りで開催されてはいるが、都道府県を跨ぐ移動は出来ず、土日でのジョッキーの東西移動もままならない状況である。
京都競馬場での天皇賞観戦にしても、アニメの聖地巡礼にしても、東京ビックサイトでのコミ○クマーケットにしても、本来なら嬉しいスケジュールをいろいろと楽しく練るのだろう、普段の年ならば、だ。

「源氏物語ミュージアムも行きたかったなぁ」
光源氏や『宇治十帖』の世界など源氏物語の魅力を様々展示や映像で紹介している宇治市にある博物館だ。
優はそれならもう一日必要かもと想定する。
「優は『源氏』が好きなの?」
まあ、高校の古文の授業を受けて解説書を一度読んだだけだと前置きして、答える。
「まぁ、ハーレムは男子の理想じゃないかな」
「あっ、優ってそういう見方するんだ。以外だな」
「だって、そうじゃない。帝の息子で、父の愛する人に思いを遂げて子までなして…」
「…都を追われたこともあったけど、屋敷の六条院を完成させて妻の紫の上を含め四人の女性を住まわせて、准太上天皇になって、やりたい放題だよね」
「そりゃ、そうだけど、そうあからさまに言われるとねぇ」
その後、 側妻である女三宮の不義、妻の葵の上や自身の死への話、それこそ源氏なき後の宇治十帖もあるんだけど。
惠が残念を吐く。
「恋物語の王朝絵巻をイメージしてた?」
「それもあるけど、『もののあはれ』でしょう」
「光源氏は欲望に正直な好色家だよね」
優がノートパソコンを閉じながら、独自の男性目線を露わにする。
「あー、もう。信じられない」
そういう見方はしないでと、惠は優の右腕をパンチする。
「あっ、痛った。乱暴するなよ」
「知らない」と惠は膨れると反対を向く。
『何?また、痴話喧嘩かよ』と、果凛が呆れるような顔をげんなりとさせてリビングに登場した。
「いえ、別に」
「何もないですよ」
示し合わせたようにそっぽを向く。
惠と優は仲が良いのか悪いのか、奇妙な関係だ。
「コイツら見てると、冴姉が苛つく気持ちが分かるわ」
苦笑する果凛を見て、『どうしますかねぇ』と右手を顎に当てながら考える鞍さん。
「それじゃあ、今晩は『坊主めくり』します」
京の都など、雅の世界を堪能しましょう、とのことだ。
「坊主…」
「…めくり、ですか」
フレーズの前後を惠と優が繋げる。
「そうです『坊主めくり』です」
鞍さんが胸を張って主張すると冴が補足を述べる。
「このシェアハウスではイベントをすると関連した内容が不思議と馬券に関連するんだよなぁ」
「ですから、楽しみにしてくださいね」
鞍さんが優と惠に笑みを向けた。
イベントが馬券に関連するのか。
優と惠は「本当かよ」と訝しがった。
鞍さんが『いいですよね』と手を合わせて首を斜めにすると、二人は仕方なく首を縦にした。
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