麓前の決着
文字数 2,085文字
ハガルも麓の村の近くまで二人を送り、一緒に来たのだが、村の幾らか手前で思わぬ事態が待ち受けていた。
「なんてこった……」
そこにいたのは、峠で散々二人をつけてきた、魔狼の集団であった。
「やつら、峠から追ってきた連中か」
「狼ども、冬になると食糧がなくなるからな。やつらも必死なのさ」
「麓の村は襲われないのか?」
「防塁が築いてあるし、魔除の罠もある。野郎ども散々懲りているのさ。とは言え、数年前までは毎年やられてた。俺の家族も、あいつらに、な……」
「ハガル。あなた、そうだったの……」
「ともあれ今は、やつらとどうやら、決着を付けねばならぬようだな」
ミコシエは剣を抜き、間合いを詰めていく。ハガルは手斧を手にした。
「戦えるのか?」
「まぁ、少しは」
「うむ。では、レーネは援護を頼むぞ」
魔狼達も陣形を整えるよう、三人を囲み始める。
と、それから間もなく、魔狼達の注意が一斉に別の方に向いた。
魔狼達の包囲の外側の一端に、数人の人がいる。
「あんなところに……なぜこんなときに。誰だ!」
「村の者か? いや」
見れば、傭兵集団の生き残りのようだ。三人いる。
頭目、それにモヒの姿も見える。
「お、おぉい、たっ、助けてくれえ」
傭兵らも思わぬ現場に遭遇してしまったといった様子で、一人は武器も持っておらず、背を向けて逃げ出そうとしたところをたちまち魔狼に飛びつかれその牙の餌食になった。
「ぐっ、お、おのれえ」
「ヒィィー!」
頭目、モヒは奮戦するがぼろぼろの状態で、次々飛びかかる魔狼に押されてしまう。
「でえい」
ハガルは手斧をぶん投げ、狼集団の注意をこちらに向ける。
「ハガル、やつらは……」
ミコシエは一瞬、レーネの方を見る。
レーネも、残る傭兵らを救助に向かったハガルに続く。
「助ける、か……」
ミコシエもそれに続いた。
ハガルは向かってくる魔狼をすでで抱きかかえると、群れに向かって投げつけ、体当たりで蹴散らしていく。
怯む魔狼をミコシエは容赦なく斬った。
レーネも、飛びかかろうとする魔狼を火の魔法で牽制する。
魔狼は一頭二頭と倒れ伏し、数を減らしていった。
「片付いたか」
「うむ……」
崖を背に魔狼を凌いでいた傭兵の二人も、傷を負いつつも何とか無事生き残った。最初に牙を受けた一人はすでに絶命している。
「おい、あんたら。無事か?」
ハガルが声をかけるや否や、傭兵らは、
「おい、近くに住む者か? 案内しろ! 食糧をよこせ!」
と怒鳴り散らした。
そしてレーネが近くに来ると、
「おっ? おい、あのときの女じゃねえか。またいいめ見させてやるぜえ!」
などと言い下品に笑い、武器を手に近づいてくる。
レーネは、怒りに駆られ、
「あ、あいつら賊よ。ハガル、あいつらを村に入れてはいけない! 私は、あいつらに……犯されたんだ!」
そう、叫んだ。
「あいつらを、倒して!」
男らは大笑いし、
「ほ~? 木こりふぜいに、俺達をやれんのか? なめるな!」
と言うや、頭目は曲刀を振りかぶり、ハガルに襲いかかった。
ハガルはそれを軽く交わし、斧でその曲刀を弾き飛ばした。
「げえっ」
ハガルはレーネに、それは本当なのだな。と問うた。
レーネはしっかりと、頷く。
頭目は今度は腰のナイフを抜いて、飛びかかってくる。
「やむなし、だな」
ハガルは頭目の頭をかち割った。
後ろに回りこんだモヒが、ハガルの肩を切りつける。
「どやぁ!!」
ハガルは声も上げず、モヒをギロリと睨んで、手斧を振り上げた。
「ヒ、ヒィィ、お、おい何してる同僚ぁ! お、俺を助けろ!」
「知り合いか?」
ハガルにそう聞かれたがミコシエは一言「知らん」と答えた。
すぐ、ヒィー、ガハッと声が響きモヒは血飛沫に染まった。
「魔物と同じく、賊徒から村を守るのも俺の役目だ。今までも、こうしてきた」
息を荒げてレーネが駆けてきて、男らの死骸を無言で確認した。
ハガルは、何も聞かなかった。
周囲では、十頭程の魔狼もすべて息絶えている。
が、一頭の巨きな躯にすがるように、その子どもだろうか、小さな犬程の大きさの魔狼の仔が生き残っていた。
「こいつも、やるのか?」
ミコシエはハガルに問う。
「……何れにしても、仔いっぴきでは峠では生きていけん。可哀想だが」
と、魔狼の仔がミコシエらがそちらを見ているのに気付いたのか、顔を上げ、突如突進してくる。
ハガルは手斧を振り上げるが、すると魔狼は剣をすでに収めているミコシエの方に向きを変え、ミコシエの足に体当たりすると、そのまま森の中へ逃げ去ってしまった。
「ウオッ?!」
ミコシエはバランスを崩してよろめいた。
「おいおい、何してる。体力がきれたか。ま、とにかくこれで無事村に入れる。行こうや」
「なんてこった……」
そこにいたのは、峠で散々二人をつけてきた、魔狼の集団であった。
「やつら、峠から追ってきた連中か」
「狼ども、冬になると食糧がなくなるからな。やつらも必死なのさ」
「麓の村は襲われないのか?」
「防塁が築いてあるし、魔除の罠もある。野郎ども散々懲りているのさ。とは言え、数年前までは毎年やられてた。俺の家族も、あいつらに、な……」
「ハガル。あなた、そうだったの……」
「ともあれ今は、やつらとどうやら、決着を付けねばならぬようだな」
ミコシエは剣を抜き、間合いを詰めていく。ハガルは手斧を手にした。
「戦えるのか?」
「まぁ、少しは」
「うむ。では、レーネは援護を頼むぞ」
魔狼達も陣形を整えるよう、三人を囲み始める。
と、それから間もなく、魔狼達の注意が一斉に別の方に向いた。
魔狼達の包囲の外側の一端に、数人の人がいる。
「あんなところに……なぜこんなときに。誰だ!」
「村の者か? いや」
見れば、傭兵集団の生き残りのようだ。三人いる。
頭目、それにモヒの姿も見える。
「お、おぉい、たっ、助けてくれえ」
傭兵らも思わぬ現場に遭遇してしまったといった様子で、一人は武器も持っておらず、背を向けて逃げ出そうとしたところをたちまち魔狼に飛びつかれその牙の餌食になった。
「ぐっ、お、おのれえ」
「ヒィィー!」
頭目、モヒは奮戦するがぼろぼろの状態で、次々飛びかかる魔狼に押されてしまう。
「でえい」
ハガルは手斧をぶん投げ、狼集団の注意をこちらに向ける。
「ハガル、やつらは……」
ミコシエは一瞬、レーネの方を見る。
レーネも、残る傭兵らを救助に向かったハガルに続く。
「助ける、か……」
ミコシエもそれに続いた。
ハガルは向かってくる魔狼をすでで抱きかかえると、群れに向かって投げつけ、体当たりで蹴散らしていく。
怯む魔狼をミコシエは容赦なく斬った。
レーネも、飛びかかろうとする魔狼を火の魔法で牽制する。
魔狼は一頭二頭と倒れ伏し、数を減らしていった。
「片付いたか」
「うむ……」
崖を背に魔狼を凌いでいた傭兵の二人も、傷を負いつつも何とか無事生き残った。最初に牙を受けた一人はすでに絶命している。
「おい、あんたら。無事か?」
ハガルが声をかけるや否や、傭兵らは、
「おい、近くに住む者か? 案内しろ! 食糧をよこせ!」
と怒鳴り散らした。
そしてレーネが近くに来ると、
「おっ? おい、あのときの女じゃねえか。またいいめ見させてやるぜえ!」
などと言い下品に笑い、武器を手に近づいてくる。
レーネは、怒りに駆られ、
「あ、あいつら賊よ。ハガル、あいつらを村に入れてはいけない! 私は、あいつらに……犯されたんだ!」
そう、叫んだ。
「あいつらを、倒して!」
男らは大笑いし、
「ほ~? 木こりふぜいに、俺達をやれんのか? なめるな!」
と言うや、頭目は曲刀を振りかぶり、ハガルに襲いかかった。
ハガルはそれを軽く交わし、斧でその曲刀を弾き飛ばした。
「げえっ」
ハガルはレーネに、それは本当なのだな。と問うた。
レーネはしっかりと、頷く。
頭目は今度は腰のナイフを抜いて、飛びかかってくる。
「やむなし、だな」
ハガルは頭目の頭をかち割った。
後ろに回りこんだモヒが、ハガルの肩を切りつける。
「どやぁ!!」
ハガルは声も上げず、モヒをギロリと睨んで、手斧を振り上げた。
「ヒ、ヒィィ、お、おい何してる同僚ぁ! お、俺を助けろ!」
「知り合いか?」
ハガルにそう聞かれたがミコシエは一言「知らん」と答えた。
すぐ、ヒィー、ガハッと声が響きモヒは血飛沫に染まった。
「魔物と同じく、賊徒から村を守るのも俺の役目だ。今までも、こうしてきた」
息を荒げてレーネが駆けてきて、男らの死骸を無言で確認した。
ハガルは、何も聞かなかった。
周囲では、十頭程の魔狼もすべて息絶えている。
が、一頭の巨きな躯にすがるように、その子どもだろうか、小さな犬程の大きさの魔狼の仔が生き残っていた。
「こいつも、やるのか?」
ミコシエはハガルに問う。
「……何れにしても、仔いっぴきでは峠では生きていけん。可哀想だが」
と、魔狼の仔がミコシエらがそちらを見ているのに気付いたのか、顔を上げ、突如突進してくる。
ハガルは手斧を振り上げるが、すると魔狼は剣をすでに収めているミコシエの方に向きを変え、ミコシエの足に体当たりすると、そのまま森の中へ逃げ去ってしまった。
「ウオッ?!」
ミコシエはバランスを崩してよろめいた。
「おいおい、何してる。体力がきれたか。ま、とにかくこれで無事村に入れる。行こうや」