第28話 早食い競争
文字数 3,300文字
マティアスとハサンが別の部屋に入った同時刻、ハンニバルもファルクに連れられて個室に入った。
そこには2人分のテーブルと席があり、テーブルの上にはフォークと皿が、そして皿の上には人間の頭よりも大きいビッグサイズのハンバーガーがそれぞれ1つずつ置いてある。
「おお! でけぇハンバーガーが置いてあるじゃねーか! ちょうど腹が減ってたところだぜ!」
「こら! まだ食うなよ! とりあえず席に座れ!」
ハンニバルが巨大なハンバーガーに手を出そうとしたのをファルクが止めに入り、ハンニバルは渋々ハンバーガーに手を出すのを止めた。
ファルクはハンニバルを指定の席に座らせ、自分ももう一つの席に座る。
「ではルールを説明する。目の前のハンバーガーを先に完食した方が勝ちだ。ただし、食事中の暴力は禁止だ。どうだ、簡単だろ?」
「このハンバーガーをお前より先に食えば良いだけなのか? ならめっちゃ簡単じゃねーか」
ハンニバルは嬉しそうな表情で返事をした。確かに早食い競争なら大柄で大食いなハンニバルの方が有利に見える。
「お互い手を汚さずに食べられるようにフォークを置いてあるからそれを使えよ。ではゲームスタートだ!」
ファルクの掛け声と共に早食いゲームが始まった。ファルクが丁寧にフォークを使ってハンバーガーを食べる一方、ハンニバルは素手でハンバーガーを頬張っていた。
「おい、フォーク使えって言っただろ! 行儀悪いぞ!」
「あ? ハンバーガーは素手で食べるもんだろ? 早食い競争でフォークなんて使ってられねーよ」
なぜかフォークを使わせようとするファルクと、それを無視して素手でハンバーガーを食べ続けるハンニバル。
現在はハンニバルの方が圧倒的に優勢だ。ファルクは自分が不利な状況になって渋々した表情をしている。
ゲーム開始からしばらくした後、ハンニバルはあと少しで食べ終わるところで手を止め、ファルクのハンバーガーに目を向ける。
「俺とお前のハンバーガーは中身が違うんだろ? 俺、そっちのハンバーガーも食ってみたいぜ。ちょっと味見させれくれ」
ハンニバルは自 分 の フ ォ ー ク を 持 っ て ファルクの席へ向かう。
「あー! 駄目駄目!」
ファルクは慌てて立ち上がり、ハンニバルを止めようとする。
「おい、どうしたんだよ? 相手のハンバーガーを食べるのはルール違反にならないんだろ?」
「あぁ、そうだけど……」
ファルクの態度が急に変わった。とても焦っているようだ。
「あ、そうだ! 俺が食わせてやるからお前はおとなしくしてな。……ほら、あーん……」
「そうか、じゃあお言葉に甘えて頂くぜ」
ファルクは素手で自分のハンバーガーをちぎってハンニバルの口へ運ぶ。
ファルクが自分のフォークで相手の口に運ばなかったのは、男同士の間接キスを回避する為だ。
ハンニバルは美味しそうにハンバーガーを食べている。
「お前のハンバーガーもなかなかうめぇな!」
「ハッハッ、そうだろう? さぁ、お前もさっさと自分の席に戻ってそのフォークを使って食べな!」
ファルクは苦笑いしながら返事をした。なぜかハンニバルにフォークを使って食べさせようと必死だ。
しかしハンニバルは自分の席に戻らず、自分のフォークを突き出していた。
「じゃあ俺もお前の口にハンバーガーを運んでやるぜ。……ほら、あーんしてみろよ」
「え!? いや、遠慮しとくぜ!」
「遠慮すんなよ、ほら!」
「いらない! 自分で食べろってば!」
明らかにファルクの様子がおかしかった。ハンニバルはファルクが怯えていることに気づいてはいたが、その理由はまだ理解していない。
「何をそんなに怯えてんだよ? 人が親切に口に運んでやるって言ってるのによ」
ハンニバルは自分のフォークを勢いよくファルクのハンバーガーに突き刺した。
「Noooooo!!」
ファルクが阿鼻叫喚の声を上げ始める。実はハンニバルのフォークには毒が塗られているからだ。
ファルクがハンニバルに毒入りフォークを使わせようと必死だったのはそれが理由だった。当然、ハンニバルはその事実を知らない。
「おい……その前にお前が自分でそのハンバーガーを食べろよ! そうすれば俺も食べ合いをしてやるから!」
「そうなのか? まぁ良いけど……」
ハンニバルは困惑しつつもファルクに言われるがままに、自分のフォークに突き刺さったハンバーガーの一部を食べた。
(よっしゃー! これでこいつも毒にやられて終わりだ! 俺の勝ちだ!)
ファルクは心の中で勝ち誇っていた。しかし、ハンニバルは毒耐性を持つ改造人間だ。毒入りハンバーガーを食べても何ともなかった。
(え……? この毒は口に入れたら即効全身が痺れて死ぬはずだ! なのに何でこいつは平然としているんだ!?)
ファルクは予想外の展開に驚きの表情を隠せなかった。
「美味かったぜ! さて、約束通り今度は俺がお前の口に運んでやるぜ、ほら!」
ハンニバルはもう一度自分のフォークをファルクのハンバーガーに突き刺し、それをファルクの口に無理やり突っ込む。
「や、やめろ! ……もご、もごっ!」
ハンニバルが強引にファルクの口へフォークを突っ込んだせいで、フォークはファルクの喉を勢いよく突く。
ファルクはハンバーガーを吐き出すことも出来ず、そのまま全身が痺れて絶命した。
ファルクは毒を仕込んでさえいなければ、例えゲームに負けても生き延びれたかもしれない。しかし、結果的に自分で自分の首を絞める結果となったのだ。
「おい、どうしちまったんだよ!? 何で死んじまったんだよ!? ……まあ良いか。良く分かんねぇけど俺の勝ちだよな」
突然のファルクの死にハンニバルは驚く。自分に毒耐性があるせいで、自分のフォークに毒が塗られていたことに気づいていないのだ。
ハンニバルはまだ腹が満たされていないのか、ファルクの死体が転がっている部屋の中で、残りのハンバーガー2つを平らげる。
ハンニバルが部屋を出ると、元の場所で自分を待っているマティアスと合流した。
2人はお互いにゲームに勝ったことと、ムフタール兄弟の死亡を確認し、勝利の握手を交わす。
「ゲームクリアおめでとう! あのムスリム兄弟のアホっぷりには呆れたもんだな」
2人の頭上に設置されている小型カメラの向こうにいるオスカーも2人の勝利を祝福する。
オスカーはしばらく無言の時間が続いていたので、2人は頭上の小型カメラの存在をすっかり忘れていた。
オスカーの目的は2人の強さをカメラに記録することなので、ムフタール兄弟とのハンバーガーゲームは見ていて面白くなかったのだろう。
2人はハンバーガー工場を後にし、外に止めてあった軍用車でオスカー博士の待つ生物兵器研究所へ向かった。
そして、2人の頭上に設置されている小型カメラをオスカー博士に返却する。
「2人ともありがとよ。おかげで良いデータが取れたよ。これは報酬だ、受け取ってくれ」
オスカーは2人に礼を言うと、報酬の札束を2人に渡した。
「こんなにもらっていいのか?」
「気にするな。今後もお前達にお世話になると思うからよろしく頼むよ」
オスカーは今後も2人と直接連絡が取れるようにと、携帯電話の連絡先を交換した。
2人はオスカーとのやりとりを終えたところで研究所を後にし、軍事基地へ戻った。
軍事基地に到着すると、2人は司令室へ向かい、ウィリアム司令官に今回の任務の報告をした。
「よくやった。これでハンバーガー工場の稼働は再開し、いずれ市民達の暴動も落ち着くだろう。では今回の報酬を受け取ってくれ」
ウィリアム司令官は2人に礼を言い、報酬を渡した。オスカーからも多額の報酬をもらったばかりなので、この間新しい武器を購入した出費をすぐに補うことが出来た。
「これで当分の間は大きな戦いの任務は無いと思われる。諸君、オスカー博士と連絡先を交換したのなら、今後は彼の研究の手伝いも引き受けてやってくれ。では、これにて解散だ」
2人は敬礼し、司令室を後にした。
2人は次の仕事の時が来るまで楽しく過ごすことにした。どうか、この平穏な時間がいつまでも続くように願いながら……。
そこには2人分のテーブルと席があり、テーブルの上にはフォークと皿が、そして皿の上には人間の頭よりも大きいビッグサイズのハンバーガーがそれぞれ1つずつ置いてある。
「おお! でけぇハンバーガーが置いてあるじゃねーか! ちょうど腹が減ってたところだぜ!」
「こら! まだ食うなよ! とりあえず席に座れ!」
ハンニバルが巨大なハンバーガーに手を出そうとしたのをファルクが止めに入り、ハンニバルは渋々ハンバーガーに手を出すのを止めた。
ファルクはハンニバルを指定の席に座らせ、自分ももう一つの席に座る。
「ではルールを説明する。目の前のハンバーガーを先に完食した方が勝ちだ。ただし、食事中の暴力は禁止だ。どうだ、簡単だろ?」
「このハンバーガーをお前より先に食えば良いだけなのか? ならめっちゃ簡単じゃねーか」
ハンニバルは嬉しそうな表情で返事をした。確かに早食い競争なら大柄で大食いなハンニバルの方が有利に見える。
「お互い手を汚さずに食べられるようにフォークを置いてあるからそれを使えよ。ではゲームスタートだ!」
ファルクの掛け声と共に早食いゲームが始まった。ファルクが丁寧にフォークを使ってハンバーガーを食べる一方、ハンニバルは素手でハンバーガーを頬張っていた。
「おい、フォーク使えって言っただろ! 行儀悪いぞ!」
「あ? ハンバーガーは素手で食べるもんだろ? 早食い競争でフォークなんて使ってられねーよ」
なぜかフォークを使わせようとするファルクと、それを無視して素手でハンバーガーを食べ続けるハンニバル。
現在はハンニバルの方が圧倒的に優勢だ。ファルクは自分が不利な状況になって渋々した表情をしている。
ゲーム開始からしばらくした後、ハンニバルはあと少しで食べ終わるところで手を止め、ファルクのハンバーガーに目を向ける。
「俺とお前のハンバーガーは中身が違うんだろ? 俺、そっちのハンバーガーも食ってみたいぜ。ちょっと味見させれくれ」
ハンニバルは
「あー! 駄目駄目!」
ファルクは慌てて立ち上がり、ハンニバルを止めようとする。
「おい、どうしたんだよ? 相手のハンバーガーを食べるのはルール違反にならないんだろ?」
「あぁ、そうだけど……」
ファルクの態度が急に変わった。とても焦っているようだ。
「あ、そうだ! 俺が食わせてやるからお前はおとなしくしてな。……ほら、あーん……」
「そうか、じゃあお言葉に甘えて頂くぜ」
ファルクは素手で自分のハンバーガーをちぎってハンニバルの口へ運ぶ。
ファルクが自分のフォークで相手の口に運ばなかったのは、男同士の間接キスを回避する為だ。
ハンニバルは美味しそうにハンバーガーを食べている。
「お前のハンバーガーもなかなかうめぇな!」
「ハッハッ、そうだろう? さぁ、お前もさっさと自分の席に戻ってそのフォークを使って食べな!」
ファルクは苦笑いしながら返事をした。なぜかハンニバルにフォークを使って食べさせようと必死だ。
しかしハンニバルは自分の席に戻らず、自分のフォークを突き出していた。
「じゃあ俺もお前の口にハンバーガーを運んでやるぜ。……ほら、あーんしてみろよ」
「え!? いや、遠慮しとくぜ!」
「遠慮すんなよ、ほら!」
「いらない! 自分で食べろってば!」
明らかにファルクの様子がおかしかった。ハンニバルはファルクが怯えていることに気づいてはいたが、その理由はまだ理解していない。
「何をそんなに怯えてんだよ? 人が親切に口に運んでやるって言ってるのによ」
ハンニバルは自分のフォークを勢いよくファルクのハンバーガーに突き刺した。
「Noooooo!!」
ファルクが阿鼻叫喚の声を上げ始める。実はハンニバルのフォークには毒が塗られているからだ。
ファルクがハンニバルに毒入りフォークを使わせようと必死だったのはそれが理由だった。当然、ハンニバルはその事実を知らない。
「おい……その前にお前が自分でそのハンバーガーを食べろよ! そうすれば俺も食べ合いをしてやるから!」
「そうなのか? まぁ良いけど……」
ハンニバルは困惑しつつもファルクに言われるがままに、自分のフォークに突き刺さったハンバーガーの一部を食べた。
(よっしゃー! これでこいつも毒にやられて終わりだ! 俺の勝ちだ!)
ファルクは心の中で勝ち誇っていた。しかし、ハンニバルは毒耐性を持つ改造人間だ。毒入りハンバーガーを食べても何ともなかった。
(え……? この毒は口に入れたら即効全身が痺れて死ぬはずだ! なのに何でこいつは平然としているんだ!?)
ファルクは予想外の展開に驚きの表情を隠せなかった。
「美味かったぜ! さて、約束通り今度は俺がお前の口に運んでやるぜ、ほら!」
ハンニバルはもう一度自分のフォークをファルクのハンバーガーに突き刺し、それをファルクの口に無理やり突っ込む。
「や、やめろ! ……もご、もごっ!」
ハンニバルが強引にファルクの口へフォークを突っ込んだせいで、フォークはファルクの喉を勢いよく突く。
ファルクはハンバーガーを吐き出すことも出来ず、そのまま全身が痺れて絶命した。
ファルクは毒を仕込んでさえいなければ、例えゲームに負けても生き延びれたかもしれない。しかし、結果的に自分で自分の首を絞める結果となったのだ。
「おい、どうしちまったんだよ!? 何で死んじまったんだよ!? ……まあ良いか。良く分かんねぇけど俺の勝ちだよな」
突然のファルクの死にハンニバルは驚く。自分に毒耐性があるせいで、自分のフォークに毒が塗られていたことに気づいていないのだ。
ハンニバルはまだ腹が満たされていないのか、ファルクの死体が転がっている部屋の中で、残りのハンバーガー2つを平らげる。
ハンニバルが部屋を出ると、元の場所で自分を待っているマティアスと合流した。
2人はお互いにゲームに勝ったことと、ムフタール兄弟の死亡を確認し、勝利の握手を交わす。
「ゲームクリアおめでとう! あのムスリム兄弟のアホっぷりには呆れたもんだな」
2人の頭上に設置されている小型カメラの向こうにいるオスカーも2人の勝利を祝福する。
オスカーはしばらく無言の時間が続いていたので、2人は頭上の小型カメラの存在をすっかり忘れていた。
オスカーの目的は2人の強さをカメラに記録することなので、ムフタール兄弟とのハンバーガーゲームは見ていて面白くなかったのだろう。
2人はハンバーガー工場を後にし、外に止めてあった軍用車でオスカー博士の待つ生物兵器研究所へ向かった。
そして、2人の頭上に設置されている小型カメラをオスカー博士に返却する。
「2人ともありがとよ。おかげで良いデータが取れたよ。これは報酬だ、受け取ってくれ」
オスカーは2人に礼を言うと、報酬の札束を2人に渡した。
「こんなにもらっていいのか?」
「気にするな。今後もお前達にお世話になると思うからよろしく頼むよ」
オスカーは今後も2人と直接連絡が取れるようにと、携帯電話の連絡先を交換した。
2人はオスカーとのやりとりを終えたところで研究所を後にし、軍事基地へ戻った。
軍事基地に到着すると、2人は司令室へ向かい、ウィリアム司令官に今回の任務の報告をした。
「よくやった。これでハンバーガー工場の稼働は再開し、いずれ市民達の暴動も落ち着くだろう。では今回の報酬を受け取ってくれ」
ウィリアム司令官は2人に礼を言い、報酬を渡した。オスカーからも多額の報酬をもらったばかりなので、この間新しい武器を購入した出費をすぐに補うことが出来た。
「これで当分の間は大きな戦いの任務は無いと思われる。諸君、オスカー博士と連絡先を交換したのなら、今後は彼の研究の手伝いも引き受けてやってくれ。では、これにて解散だ」
2人は敬礼し、司令室を後にした。
2人は次の仕事の時が来るまで楽しく過ごすことにした。どうか、この平穏な時間がいつまでも続くように願いながら……。