3 またねの後で【微R】
文字数 1,666文字
「ん……」
トイレの個室に駆け込んだ奏斗は自己嫌悪に陥りながらも便座に腰かけ自分自身に指を絡めた。
本当なら部屋に戻るべきなのだろうが愛美がいる。そんなところで自慰などできない。
触れられた肌がまだ熱を持っている。
花穂とつき合っていた頃は、こんなことがしたいとさえ思わなかった。
それ以前に、自分はそこまで性欲が強い方ではない。
──あまり人が好きじゃないせいかな。
そんなこと思う。
でも花穂にされるのは嫌じゃなかった。
優しい指先が触れるたび、心地よかったのだ。
「はあ……っ」
『自慰に勝る快感なんかあり得ないわ』
花穂は以前そう言っていた。
体験談なのかと思って自慰はするのかと聞けば、
『自慰するくらいなら、奏斗を襲うわ』
とはっきり言われたのだ。
──どういうことだよ。
いつの間にか慣らされ、まるでパブロフの犬のように求められれば応じるようになっていた自分。さっきのもただの条件反射なのだろうかと思うと悲しくなる。
『襲われたかったの?』
目を閉じれば幻聴が聞こえた。
彼女の体温を思い出し、快感に夢中になる。
熱を放った頃には後悔でいっぱいになった。
「何してんだよ、俺」
手を洗いトイレから出ると、
「お腹でも痛いの?」
と声をかけられ思わず壁に張り付く。
「そんなに驚かなくでもいいじゃない。心配になったのよ」
花穂は奏斗が心配になり再びここへ戻ってきたらしい。その時慌ててトイレに駆け込む姿を見て待っていたようなのだ。
「お腹と言うか……その」
言い淀む奏斗に何かを察した彼女。
「そっか、奏斗も男の子だもんね」
ポンと肩を叩かれ複雑な心境だ。
「眠れないなら、ちょっと売店に行かない?」
愛美を部屋に残している状況なのに花穂といるところを見られたら面倒なことになるのではないかと思った。
だが自分と旅行に来ているのに他の女と逢引きしていると勘違いされたなら、愛想をつかされるかもしれない。それは逆に好都合とだなと最低な考えが頭を過った。
──俺ってとことん最低。
自分自身に嫌気がさしながらも、元々ここへ来たのは飲み物を買うためだということを思い出し、ついていくことに。
「そっか。売店と喫茶店は24時間なんだ」
売店の隣には和風喫茶が併設されていた。午前3時前だというのに、そこそこ客が入っているようだ。
花穂はお目当てのものを売店で購入すると、
「何か飲んでいく?」
と問う。
「デートのお誘い?」
もちろん冗談で言ったつもりだ。
彼女は少し考えたのち、
「そう。デートのお誘いよ」
と悪戯っぽく笑う。
「ここはね、抹茶ドリンクがお奨めで……」
「俺、アイスティー」
「ちょっと奏斗、わたしの話聞いてた?」
席へ着くとメニューを開いた二人。
「聞いてたつもりだけど、そうは見えなかった?」
奏斗は澄ました顔で問う。
「相変わらずマイペースね」
”そういうところ好きだけれど”と言われドキリとする。
「花穂は決まった?」
「ええ」
何か言いたげな彼女をスルーして店員を呼ぶ。
注文を終えて花穂に向き直れば少しムッとしていた。
「何怒ってるの」
気遣いを怠ったことだろうかと思ってると、
「あなた、ホント……」
「ん?」
「何処行っても注目されるのね」
”店員があなたばかり見てたわ”と不満そうな彼女。
「日本語が流暢な外国人だと思われたんじゃね?」
と奏斗。
「何言ってんの、あなた」
呆れ顔の花穂。どうやらこの手の冗談はお気に召さないらしい。
「モテる男はお嫌いですか?」
ため息をつきながら頬杖をついて尋ねれば、彼女は驚いた顔をした。
「なんだよ。自分でモテるっていうなって?」
「いいえ。あなたがそんなこと言うなんて意外だわと思って」
”そうねえ”と彼女は続ける。
「モテる男は好きじゃないわ。だってヤキモチ妬くでしょう?」
「妬くの」
「妬くわよ。わたしこう見えても凄くヤキモチ妬きなの。首絞めたいくらい」
ぎゅっと首を絞めるジェスチャーをする花穂に思わず吹き出す奏斗。
「えらいヤキモチ妬きなんだな」
「ええ。そうよ」
わざとツンとする彼女に奏斗は優しい笑みを浮かべたのだった。
トイレの個室に駆け込んだ奏斗は自己嫌悪に陥りながらも便座に腰かけ自分自身に指を絡めた。
本当なら部屋に戻るべきなのだろうが愛美がいる。そんなところで自慰などできない。
触れられた肌がまだ熱を持っている。
花穂とつき合っていた頃は、こんなことがしたいとさえ思わなかった。
それ以前に、自分はそこまで性欲が強い方ではない。
──あまり人が好きじゃないせいかな。
そんなこと思う。
でも花穂にされるのは嫌じゃなかった。
優しい指先が触れるたび、心地よかったのだ。
「はあ……っ」
『自慰に勝る快感なんかあり得ないわ』
花穂は以前そう言っていた。
体験談なのかと思って自慰はするのかと聞けば、
『自慰するくらいなら、奏斗を襲うわ』
とはっきり言われたのだ。
──どういうことだよ。
いつの間にか慣らされ、まるでパブロフの犬のように求められれば応じるようになっていた自分。さっきのもただの条件反射なのだろうかと思うと悲しくなる。
『襲われたかったの?』
目を閉じれば幻聴が聞こえた。
彼女の体温を思い出し、快感に夢中になる。
熱を放った頃には後悔でいっぱいになった。
「何してんだよ、俺」
手を洗いトイレから出ると、
「お腹でも痛いの?」
と声をかけられ思わず壁に張り付く。
「そんなに驚かなくでもいいじゃない。心配になったのよ」
花穂は奏斗が心配になり再びここへ戻ってきたらしい。その時慌ててトイレに駆け込む姿を見て待っていたようなのだ。
「お腹と言うか……その」
言い淀む奏斗に何かを察した彼女。
「そっか、奏斗も男の子だもんね」
ポンと肩を叩かれ複雑な心境だ。
「眠れないなら、ちょっと売店に行かない?」
愛美を部屋に残している状況なのに花穂といるところを見られたら面倒なことになるのではないかと思った。
だが自分と旅行に来ているのに他の女と逢引きしていると勘違いされたなら、愛想をつかされるかもしれない。それは逆に好都合とだなと最低な考えが頭を過った。
──俺ってとことん最低。
自分自身に嫌気がさしながらも、元々ここへ来たのは飲み物を買うためだということを思い出し、ついていくことに。
「そっか。売店と喫茶店は24時間なんだ」
売店の隣には和風喫茶が併設されていた。午前3時前だというのに、そこそこ客が入っているようだ。
花穂はお目当てのものを売店で購入すると、
「何か飲んでいく?」
と問う。
「デートのお誘い?」
もちろん冗談で言ったつもりだ。
彼女は少し考えたのち、
「そう。デートのお誘いよ」
と悪戯っぽく笑う。
「ここはね、抹茶ドリンクがお奨めで……」
「俺、アイスティー」
「ちょっと奏斗、わたしの話聞いてた?」
席へ着くとメニューを開いた二人。
「聞いてたつもりだけど、そうは見えなかった?」
奏斗は澄ました顔で問う。
「相変わらずマイペースね」
”そういうところ好きだけれど”と言われドキリとする。
「花穂は決まった?」
「ええ」
何か言いたげな彼女をスルーして店員を呼ぶ。
注文を終えて花穂に向き直れば少しムッとしていた。
「何怒ってるの」
気遣いを怠ったことだろうかと思ってると、
「あなた、ホント……」
「ん?」
「何処行っても注目されるのね」
”店員があなたばかり見てたわ”と不満そうな彼女。
「日本語が流暢な外国人だと思われたんじゃね?」
と奏斗。
「何言ってんの、あなた」
呆れ顔の花穂。どうやらこの手の冗談はお気に召さないらしい。
「モテる男はお嫌いですか?」
ため息をつきながら頬杖をついて尋ねれば、彼女は驚いた顔をした。
「なんだよ。自分でモテるっていうなって?」
「いいえ。あなたがそんなこと言うなんて意外だわと思って」
”そうねえ”と彼女は続ける。
「モテる男は好きじゃないわ。だってヤキモチ妬くでしょう?」
「妬くの」
「妬くわよ。わたしこう見えても凄くヤキモチ妬きなの。首絞めたいくらい」
ぎゅっと首を絞めるジェスチャーをする花穂に思わず吹き出す奏斗。
「えらいヤキモチ妬きなんだな」
「ええ。そうよ」
わざとツンとする彼女に奏斗は優しい笑みを浮かべたのだった。
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