11.『ジソンシン』

文字数 771文字

雨が降ってきた。洗濯物を取り込みながら、わたしは晩御飯の献立を考える。


一通りハンガーにかけ終え、靴下を洗濯ばさみに挟んでいく。


泥のしみがとれてない靴下を見る。娘の小春は4歳になった。

 
匂いを嗅ぐ。洗剤のいい匂いがした。雨の匂いも感じてみる。


ベランダの下では大家さんが水やりをしている。雨が降っていることに気づいて、早々に水やりを終えた。

 
アスファルトの上には雨がしみては消えしみては消えを繰り返す。次第に灰色のアスファルトは潤いを増して黒くなってきた。


昨夜、ラインで友達から結婚式披露宴の案内が来た。迷ったがいかないことにしようと思う。


雨に迷った鳥の声が響く。


雲はみるみるうちに立体的な灰色なっていく。

 
わたしの服の裾が引かれ、振り返ると小春がなんとも言えない顔でわたしを見る。


わたしはごまかすように微笑みかける。


小春は寄り添うように微笑みかける。

 
「雨、降ってきたね」
 

子供は正直だな。


「そうね」


「ねぇ、お母さん、ジソンシンってなに?」


「ジソンシン?」
 

「うん」


「ジソンシン?・・・小春、そんな言葉どこで覚えたの?」


「けんたくんがね、教えてくれたの」


「すごいね」


「うん。けんたくんがね、小春はジソンシンがあるって」

 
「うん」

 
「じゃあお母さんもジソンシンあるね」

 
「え」

 
「だって、お母さんは小春のお母さんでしょ。だからお母さんもジソンシンあるって」

 
「えへへ」

 
「すごいね、お母さん」

 
「すごいの?」

 
「うん!ご飯作ってくれるし、はみがきしてくれるしぃ、おやすみって言ってくれるし。あ、あと、おはようとかいってらっしゃいも言ってくれる」

 
雨が強くなってきた。


小春と一緒に昼寝をした。小春の寝顔。気づいたら日が暮れていて、そっと布団を抜け出した。

 
夕飯の支度をする。ふと、もう一度ラインを開いたわたしは、披露宴参加のボタンを押してみた。

 

 

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