第85話 2ヶ月と22日目 8月16日(日)

文字数 979文字

 さすがに今日は金が入って来る1日とはいかず、出て行く1日となった。
 例の競馬パチンコ依存症の友人から連絡があり、1万円貸して欲しいと言う。
 奇しくも愛読のノベルデイズ・ポジティブ9で、クリミナルマインドと言うドラマのDVD を紹介して貰い、ゲオで借りて今から観ようと帰り道を急ぐ際での電話だった。
 彼には貸した覚えの無い1万円を返して貰い、若干良心の呵責に苛まれていたところだ。
 明日から仕事に行くのに、電車賃すらないと言われれば仕方がない。
 そこで貸すのはいいが競馬やパチンコに使うなら貸さない、と、言おうと思ったが、それより更に良い手を思い付いたので、貸すと返事をして会いに行った。
 どの道何れ返さなくてはと思っていた金だが、みすみす競馬ですってしまうのを看過する訳にはいかない。
 そこで最終レースには間に合うが、メインレースには間に合わないように時間を設定した。
 彼には先ず千円だけ貸し、残りの9千円は最終レースが終わった後で貸すことにした。
 さすがは元競馬依存症の私である。
 依存症である友人の気持ちは手に取るように分かるのだ。
 そうしたことは余り褒められたことではない筈なのだが、彼には滅茶苦茶褒められた。
 計算通り彼は私の目の前で、その千円を見事にすって見せたからだ。
 最終レース後に命の恩人とまで言われたので、この闘病日誌の話をしようとも思っが、それではその一万円が実は私に貸した覚えかないと言うことかバレてしまう。
 そこで少額競馬のことやら口座に入金しないことやら、色々と私の編み出した競馬依存症の治療法を口頭でレクチャーした。
 彼は自分も頑張ってみると言ってくれた。
 食事代やらお茶代やらで四千円の出費と貸した一万円で計一万四千円の出費だったが、友人が競馬依存症から脱け出す為なら安いものだ。
 今日の無事に感謝しつつ、明日の無事も確実である。
 と、ここまでは決まったが、実は来月の月末に一万五千円返すと言ってくれた友人に、私は固持すべきだったのだが、「うん、待ってる」
と言ってしまった。
 これではまた良心の呵責に苛まれる。
 やはり明日返さなくていいと言おう。
 しかし恐らく明日になったら、そのことを私は忘れているだろう。
 否、せっかくの彼の好意だ。
 忘れることにしておくのが彼の為にもなる。
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