第6話 ユースホステル「ナインプレート」

文字数 1,176文字

○東京六本木、11:30pm

 大阪本社から東京支社に転勤になったA子、六本木で憂さを晴らす。

なんや、かっこつけてドライマティーニ飲んでみたけど、タッカイだけでちっとも美味しくないわ。
酔い覚ましに六本木の街を徘徊するA子。
東京の街は冷たい感じがするなぁ。人間関係が希薄や。やっぱりウチは西成でホルモン食うて、レモン酎ハイが性に合ってるわ。
ぶつぶつ独り言を言いながら、赤坂見附方面に吸い込まれてゆくA子。
あれっ、霧や。しかも濃霧やないか。東京でも霧が出るんやな。前が見えへん。
濃霧に視界を遮られるA子。
それにしてもいい加減歩き疲れたわ。今、何時なんやろか。
携帯で時刻を確認するA子。
1:20AM

Zzzzzzプツ。

あかん。バッテリー切れや。これじゃGPSもきかへん。とりあえず今晩寝るとこを確保せんと。
A子、しばらく歩いてユースホステル「ナインプレート」の看板を発見。
○ユースホステル「ナインプレート」のレセプション
夜分遅くすんません。まだ部屋ありますやろか?
まだありますけど...女性の方と相部屋になりますけど?
今晩一晩だけや、ええで。
洗面所の脇の菊の間になります。

料金は、明朝チェックアウトの時にお願いします。

○菊の間 2:00AM

部屋は読書灯だけの薄暗さ。

イチマーイ、ニマーイ...キュうま〜い。

う、う、うっ...


いきなり泣き出す相部屋の女。
なっ、いきなりなんや。何泣いてるんや?
一枚足りないのです。足りないと主人に叱られるのです。うっうっうっ...
例の十万のことやろ。東京の女は、せっかちやからなあ。途中で一枚落としたんやな。それでDV亭主が恐くて家に帰れないんやな。
無礼うちに遭うのです。うっうっ...
いつの時代の話や?まっ、ええやろ。これもってき、袖触れ合うも多少の縁て、お婆ちゃんがいうとったわ。
泣く女に一万円を渡すA子。
ありがとうございます。うっうっうっ...
あー、なんかええことしたな。

やっと寝れるでえ。

床につき、すぐに爆睡するA子。

...zzzzzz....

○翌朝、6:00AM
おいっ。君、起きなさい!
なっ。なんやうるさいなぁ、もう朝か。
君、若い娘がこんな街の真ん中で野宿なんかして恥ずかしくないの?
野宿?ワイは、ユースホステル「ナインプレート」はんにお世話になってるんやないか。
ナインプレートは、かねがね幽霊騒ぎがあってね、今年になってコロナ禍で三月に閉店してもうないよ。
なっ、なんやて?信じられへん。
慌てて、財布の中身を確認するA子。
ふっ、増えてる。財布の中身が九万円増えてるで。どないなってるんや。
君、LSDなどの不法薬物で幻覚を見てるんじゃないの?署で女性署員の立ち合いの元、尿検査をするから同行を願いましょうかね。
わいは六本木でドライマティーニは飲んだで、美味しくなかったけどな。けど、LSDはやってへんで。
いいから、来なさい。
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