文字数 426文字

 快活な「ただいま」が部屋いっぱいに元気をみなぎらせた。
 リビングの鏡台の前に座る私の右目の視界を夕日が掠め、一瞬、窓外を見やる。
 鏡の奥に娘が現れた。私の背中に向かって大きく手を振りながら満面の笑みを覗かせる。こちらも鏡越しに小さく手を振って娘のシグナルに応えた。
 去年、小学校に入学したばかりの我が子の成長に、思わず笑みは零れ、しみじみと熱い眼差しで、鏡の外へ移動する影を見送った。
 初夢の風景が脳裏に浮かんだ。たった一人船を見送る時の切なく寂しい気持ちが蘇り、胸をえぐる。息苦しくなって溜息交じりに、再び鏡を覗くと、ふと亡き母の顔が浮かんだ。
 己の顔に刻まれた母の面影に微笑みかけ、しばらく見つめたのち、そっと鏡に触れてみる。指先に温もりを感じた途端、鏡の中から眩い光が網膜を襲った。反射的に目を細めたものの、光は一瞬で消えたので目を見開き、光源を求めて光の筋を探りながら触れていた指を引っ込める。
 背後から呼びかけられ、振り返った。
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