夢のなかの化け物がいつでも腹の底から染みる恐怖を与えるように

文字数 603文字

夢のなかの化け物がいつでも腹の底から染みる恐怖を与えるように、現実に見ないもののほうが、より怖いのだということをぼくは知っていた。
黒い土の底に白いハンカチ。
鳥なんて見てもわかんない。せいぜい鳩とか、カラスとか。カッコウは鳴き声だけはわかるけど。
カッコウは鳴き方、すぐにわかるよね。歌にまでなってるし。だけど知ってる? カッコウの託卵っていう習性。
たくらん?
カッコウはね、自分の卵をよその鳥の巣にこっそりと生んで預けちゃうんだ。託卵された鳥は懸命に卵をあたためる。そして孵ったカッコウの雛は自分以外の卵をみんな巣の外に蹴落としちゃうんだ。よその親の巣で、ちゃっかりと自分以外の卵を殺して、自分だけ養い親の鳥からエサをもらって育つんだ。
ぼくはハンカチに土をかけていた手を止めて、臼井くんを見た。
臼井くんはちょっと目をすがめるようにしてぼくを見返していた。
カッコウっていやな奴なんだ。知らんかった。
いやな鳥なんだ。
臼井くんはうつむき、スコップでもって穴の横の土を少しだけすくった。そのままその土をウサギにかける。ハンカチはすっかり見えなくなっていた。
掘りかえしたばかりの黒く濡れた土がウサギの死骸を覆っている。
でもみんなに好かれてる。みんな知ってるし、歌にまでなってる。
ぼくは臼井くんの手からスコップをとりあげ、パンパンと土をたたいてならした。
いやな鳥なんだ。
だけど好かれてる。
いやな鳥なんだ。だけど好かれてる。
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登場人物紹介

臼井くん
うすい

ぼく
ちょろくて寒い

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