第3話 公開捜査

文字数 1,647文字

次のニュースです。

建築業から出版、通信業界を手掛る名取グループ社長の長女が、

行方不明になった件の続報です。

県警は400人体制で行方を捜索しておりますが、依然消息不明な事から、

本日より公開捜査に乗り出しました。

名取社長の長女、名取 愛花(なとり・あいか)さん(11歳)は、

一昨日の15日に友人が学校を出る所を目撃したのを最後に、

行方が分からなくなっています。

愛花さんの生活状況から失踪の可能性は低く、

何らかの事件や事故に巻き込まれた可能性が高いとして、

不審者や不審車両の情報がないか捜査しているとの事です。

愛花さんの目撃情報や不審者・不審車両の情報がありましたら、

今から申し上げる電話番号へ……。

少女

「ラジオなので写真とかないですが、これ私ですね」

綾瀬 亮介

「嘘だろ……? 

 君が今ラジオで報道してた、名取 愛花なのか?」

「はい、今報道で流れてた通りですね」
「警察が公開捜査してるのに、なんでこんな所にいるんだ?」
「ちょっと事情がありまして~、てへ♪」

「てへ♪、じゃない! そんな冗談言ってる場合じゃないし、

 それに初めて会った時とキャラ変わってないか?」

「そんな事ないですってば♪ ふふっ、先輩ったら私の事意識しちゃって。

 もう私の魅力でメロメロになってますね♪」

「何なんだ一体。一晩だけ泊めるって話をしただけなのに」
コンコン…

あまりにも突然の出来事に頭を抱え込んでいると、

玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。

「こんな朝早くから誰だ? 今はそれどころじゃないんだが」

今は来客の相手をしている場合ではないため、俺は居留守を決め込む事にした。

コンコン…

しかし、考える事を阻止するかのように、来訪者のノックは鳴り止まない。

「しつこいな。一体誰だよ……」

しつこい来訪者に根負けした俺は、仕方なく玄関に歩み寄る。

「警察です。綾瀬さん、いらっしゃいますか?」
「警察!?」

これはまずい。


中に入られると名取が見つかり、俺は何らかの容疑が掛けられるかもしれない。


かと言って、門前払いをする事は不可能だ。

「綾瀬さん、お聞きしたい事がありますので、ここを開けてもらえませんか?」
(駄目だ……今からでは、裏の窓から出たとしても、逃げるのは不可能だ)
「管理人から鍵を借りてきました。中に踏み込みましょう」
「ちょっと待った! 今すぐ窓から外に出るんだ、名取ー!」

 

 

 

 


チュンチュン…

必死に名取の名を叫んだ所で、自分が布団の中にいる事に気が付いた。


Tシャツは汗だく、頭は真っ白で何が起きたのか把握出来ない。

「夢……か」
(リアルな夢だったな……いや、そうでもないか)

年齢的に明らかに食い違いがあるし、冷静に考えてみると、おかしな点がある。


少女の名前や家にいた経緯も聞いてないので、全てが嘘な可能性も高い。

「とりあえず夢の事より現状の確認をしよう」

少女の様子が気になり、部屋の中を見回してみるが、少女の姿はどこにもなかった。


寝ていたはずの窓側には、貸した座布団がきちんと折り畳まれている。

『亮介、おはようにゃ。女の子は出て行ったのかにゃ?』

ルキアは今日は帰って来なかったようで、部屋に姿はなく心でそう問いかけてくる。

『そのようだな』

(あの儚さから、存在自体が夢の可能性も捨てきれなかったが、

 ルキアにも記憶があるし、座布団の状態からも、

 現実に起きていた事で間違いなさそうだ)

とりあえず汗だくのシャツが気持ち悪いので、すぐさまシャツを脱いで、脱衣カゴに投げ、

タオルで体を拭いて真新しい服に着替える。

「まあ俺の役割は一晩泊める事。

 それが終わったのなら、それ以上気にかける必要はないか」

気持ちを切り替えて、ハンガーから服を手に取り、身にまとう。

「今は……朝の8時か。

 まだ昼までは時間があるし、朝食の準備でもしよう」

「料理をする時は、換気に気をつけてっと」
部屋に換気扇が無いため、玄関横の窓を開ける。
「ああ、まだこんな所にいたのか」

てっきり家に帰って行ったのだと思っていたが、

少女は家の前で立っており、一人で空を見上げていた。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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