あとがき

文字数 907文字

 会社で仕事をしていると、毎日大量のメールの山に埋もれることになります。

 たった一日、いや半日休んだだけで、メールボックスを開いた途端、うんざりするほどのメール攻勢に見舞われます。メールを処理するだけで午前中の業務が終わっていたなんてこともざらです。一つのメールを読むのに時間をかけられませんから、ざっと文面を数秒で流し見して、自分の名前か、あるいは自分が関係するキーワードが出ていなければ、関係ないものとして次にいきます。瞬時に選別されて漏れたメールは、そのまま永久に読み返されません。

 うちの会社が導入しているグループウェアには、大量のメールを素早く選別するための仕組みがあります。それは『受け取り手が少ないメールは重要なメールである』という判断基準に依ります。Toに自分の名前が入っていて、かつToの人数が二人以下であれば満月マークが、三人以上または自分の名前が入っているのがccである場合は半月マークが、それ以外なら何のマークも付かない。メールを大量に処理する管理職などは、満月マークのメール以外読まなかったりして、送るときの宛先を工夫する必要があったりと、社員は無意味な技術を習得していきます。

 メールに限りません。データベース上には大量の文書が散らばっています。そこには重要な仕様書や報告書など、価値ある情報が散在しています。けれど、みんながその情報を求めているのに、誰もそれが何処にあるのか知りません。偉い人などはそれら文書をみんなで共有することを勧めるのですが、そうして全員が大量の文書を共有すれば、結局埋もれて誰も読まなくなります。

 何十人の人間に送られ、何百人の人間にアクセスされ、何千人の人間の目に毎日とまっていても、文章たちは顧みられません。

 そんな埋もれた無数の文章のなかに、とても大切な想いを抱えた文章がいたとしたら――

 就業時間中、山となった大量のメールを前にして、ぼんやりそんなことを考えていたのが、本作品のきっかけです。

 うん。
 まあ。
 ちゃんと仕事しろよ。


 この文章があなたと少しでもシンクロできたなら幸いです。
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