3 中村光夫の文体

文字数 628文字

3 中村光夫の敬体
 中村光夫の文体の特徴と見なされている山田実妙のような「です・ます」調は、書簡形式で戦中に書かれた『戦争まで』を別にして、青春論から本格的に使われ始めます。これは戦後に確立された文体です。女性誌の読者を意識したせいもあって、丁寧に語りかける口調です。批評を一方的に自分の主張をアピールするだけのアジテーションにしていません。それは他者を意識しているのです。「『です』とか『ます』とかいう口調で、対象とする作品あるいは作家に批評の言葉が思い入れをすることを回避したこと。しかしそれが同時に味もそっけもない、これほど読んでつまらないものはないというスタイルになった一つの理由だとぼくは理解しています」(吉本隆明『難しい話題』)。こうした意見も日本近代文学の青春志向を反映しています。小林秀雄以来、吉本隆明も含めて、いささか無鉄砲とも言える若者が新しい批評を引っさげて威勢よく登場しています。「対象とする作品あるいは作家に批評の言葉が思い入れをすること」は批評における青春の表象です。中村光夫の文体は、青春を語りながら、青春期を感じさせません。むしろ、批評の青春の自明性に対する懐疑を体現しているのです。

 「です・ます」調は敬体と呼ばれます。他方、だ・である調を常体と言います。敬体は敬語表現ですから、相手との関係が意識されます。聞き手や読み手には、自分たちの理解を優先していると配慮が感じられます。場を見て敬体を使うことも大切な社会規範です。

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