第4話(5)

エピソード文字数 3,067文字

「…………もうすぐ、戦闘だ。第二人格を表に出すぞ」

 とんっ。俺は眉間を、右の中指で軽く押した。

「にゅむっ! あ、あっちのゆーせー君が出ちゃう!」
「ついにあのモードになるがかえ! お、おそろしやー!」
「目付きが、鋭くなった……。完全に、人格が入れ替わったわね……」
「ああ、久々に俺が表になった。今日は楽しませてくれよぉ?」

 わたくしは嗜虐的に口端を吊り上げ、敵の5人を見回す。

『お前、いきなりどうしたんだ? 俺が出かけてる間に中二病を患ったのか?』

 これはこれは、謎の声。どうもです。こうした事由はいずれ分かりますんで、見守っててくださいな。

「おい審判、準備完了だぜ。とっととゴングを鳴らせよ」
《おおおおお~、色紙選手はまるで別人DAっ! これには驚愕を禁じ得ないNE!》
「あーうっせぇ。言う通りにしねーとぶっ殺すぞ」

 唾を吐き、親指で首を斬る真似をする。
 すみませんね、審判さん。暴言と暴挙をお許しください。

《ひじょーにガクブルしちゃうから、従っちゃうZE! でも決まりで一応ルール説明をしないといけないので、急いでするんだYO!》
「チッ、水をさすんじゃねーよ。クソ審判、10秒以内にしろ」
《相手のチーム全員を気絶させるかギブさせるかリング外に強制転送させたらウィナーとなるんだよYO! 強制転送ってのは死に至る攻撃を受けると会場内に張り巡らされた魔術が自動的に発動して命を落とす前に超ハイテクな医務室に運ばれることだNA!》

 この長い文を、彼は9秒で言い切った。
 ゴメン。威圧して、ゴメンです。

《ヘイ終わったNE! ではお待ちかねの第4ドームの第1回戦スタートDA!》

 どこからかカーンという音が響き、俺のせいで非常に早くバトルが始まった。試合前のやり取りを楽しみにしてた方がいましたら、こちらもゴメンナサイです。

「ふっ、ようやく鮮血を見れるんだな。強制転送されない程度に、ジワジワ痛ぶってやるぜ」
「そ、そうなったら重傷人が多々出るぜよ! れみゃ――レミア先生シズナ先生っ、ワシらで片付けるがよ!」

 フュルが例の杖を手にして、2人も得物を握る。

「くははははっ! 図に乗るなよ小娘共っ」
「我らとて、全次元のチャンピオン。一人足りないチームになど、負けんわ――」
「『茶(ちゃ)の憤激(ふんげき)』ぜよ!」
「――ほげふぅ!」

 地面から(多分、土製の)太い足が出てきて、ガイコツをキック。ガイコツ部門のチャンピオンさんは、グシャッと大地に叩きつけられガクッと気を失った。

「該来津尾(がいこつお)さんがやられた! みんなっ、フォーメーションBだ!」
「『ダークネス・ライト』っ」
「「「ぎゃあああああぁっ!」」」

 シズナの目から光線が3本飛び出し、その光を浴びたゾンビ、フランケン、ドラキュラはもがき苦しんで失神した。
 あれは確か、相手の血管内に灼熱の闇のエネルギーを送り込む術だったな。補足するとコレ、一番弱い攻撃系の魔王術っス。

「ゾン=ビーさんっ、フラケン・シュタインさんっ、キュラドラさん!? 全次元のチャンピオンたちが一瞬で――」
「仮面さんも、一瞬だよーっ。『聖降金雨(せいこうきんう)』っ」

 レミアが聖剣『黄金浄化』を天にかざすと、オジサンの上空に黄金の雲が発生。やがてそこから金色の雨が降り注ぎ、彼は一粒当たっただけで気を失った。

「うむうむ、ワシの『聖金術(せいきんじゅつ)』は強いにゃぁ! イカスぜよっ!」

 聖金術とは初代勇者が女神様から頂いた、魔王を倒すための聖なる術なんですって。……その女神さんがこの場面を目撃したら、『倒すはずの魔王が使ってる!』って泣き崩れるに違いないな。

「にゅむん! あたしも撃破完了(げきはかんりょー)だよーっ」

 ビビー!
 レミアが微妙に痺れながら得物を掲げていると、ブザー音が鳴り響いた。どうやらこれは、女神さんが出したレッドカードの効果音――ではなく、試合終了の合図のようだ。

《勝負あRI! 魔王使いチームの勝利だっHYAー!》

 ギ○スの圧勝部門に載るくらい、圧勝。それでも彼女達は実力を1%も出していないのだから、末恐ろしい。

《全次元のチャンピオン達が、手も足も出なE! 別次元の強さだったMYO!》

 審判に――いんや。茶の間にいる方々にも、改めて3人の力を見せつけられた。
 よーし。よ~し。それでは、も一つ始めますかっ。
「やったわね。レミアさんフュルさんっ」
「うむぜよっ。勝ったぜよ――」
「おい、レミア、フュル、シズナ。こりゃあどういうことだ?」

 淡々と、冷たい声で。俺は仲間に喋りかけた。

「にゅむっ? な、なーに?」
「魔王使い様の出る幕、なかったじゃねーか。生き物が壊れる感触、悲鳴を楽しめなかったじゃねーかよ!」

 俺はレミアの胸倉を掴み、鼻と鼻がくっ付くくらい顔を近づける。

「いつ誰が、獲物を倒していいって言った? あぁ?」
「にゅむ……。ご、ごめんな、さい……」
「レミアぁ、この苛立ちはどーすりゃいーんだよ。どーしてくれるんだぁ?」

 乱暴に彼女の身体を揺さぶり、舌打ち。盛大に不満を露わにし、続いて同じく乱暴に地面を蹴る。

「い、従兄くん落ち着いて。皆さん見てるわよ……?」
「んなの関係ねぇ。こっちは苛立ってるんだよ!」

 今度はシズナに怒声を飛ばし、オーバーアクションで激昂。駅前によく居るヤンチャな方々みたく荒ぶっていたら、フュルが自分の胸を叩いた。

「しっ、師匠っ。その怒りは、ワシにぶつけるぜよ……っ」
「ぁぁん?」
「レミア先生らぁは、ワシの指示に従っただけやき……。こ、これの責任は、このワシにあるがよ……っ」
「…………そーいや、お前がくだらねーことほざいたんだったか。余計なことする犬には、お仕置きが必要だなよぁ!!

 俺はレミアを荒々しく突き飛ばし、フュルのボディーにアッパー気味の右ストレートを打ち込む。

「っっ、かはぁっ!」

 拳を受けたフュルは綺麗な放物線を描き、20メートルほど吹っ飛んでダウン。彼女の周りで砂埃が舞い上がり、伝説の勇者魔法使いはピクリともしなくなった。

「従兄くんっ! 今のはいけないわよ!!
「うるせぇぞ犬2号っ。テメェも犬に従ってるんじゃねーよっ!!

 今度はシズナにミドルキックを叩き込み、魔法使い魔王も吹き飛んで沈黙。司会者が息を呑む音をマイクが拾い、ソレが試合場に只々響いた。

《………………あ、あNO……。魔王使いチーム、さん……。仲間同士での争いは――》
「オメーら、次逆らったら殺すからな。……おいレミア、命令だ。伸びてる犬どもを回収しろ」
「はい、優星様。回収致します」

 目が虚ろになった魔王が、恭しくお辞儀。魔王使いに支配された彼女は、2人を肩に担いで戻ってきた。

「チィッ、くだらない時間だったぜ。審判、フィールドから出ていいんだよな?」
《い、イエスでSU。第二試合は一時間後にここでありますので、そ、そちらの扉から出て…………先程の『ペロリん』で、お休みになってくださいHO……》
「あいよ。次こそは、敵を血まみれにしたいもんだぜ」

 俺は首をポキンと鳴らし、レミアを引き連れ退場。「勇者達を、圧倒しやがった……」、「何者だよアイツはっ」なんて驚愕を聞きながら通路を闊歩し、俺らは例の控え室に入ったのだった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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