第61話 BLM運動について

文字数 3,646文字

 大坂なおみ選手が全米オープン二度目の優勝を果たしましたね、それはもちろん素晴らしいことですし賞賛されるべき偉業だと思うのですが、彼女が日替わりでつけていた、警官による逮捕時に死亡した黒人の名前を書き込んだ黒いマスクには違和感を覚えた方も少なくないんじゃないでしょうか?
 彼女がそう言うメッセージを発信することは別に構わないと思うのです、誹謗中傷や差別的なメッセージではない(はず)ですから( 私自身はスポーツに政治を持ち込むことはあまり好みませんが……)。
 ですが、そのメッセージに対する反応に違和感を感じます。
 

 BLM(Black Lives Matter)について、日本人は無関心だなどと言われます。
 釈迦に説法かも知れませんが一応解説しておきますと、意味するところは『黒人の命は大事』だそうです、ですが私の英語力ではその訳はしっくりきません。
 Matterは事件、案件と記憶していますし、Black Livesを『黒人の命』と訳するのも不自然な気がします、Lives of Blackなら『黒人の命』だと理解できますが、Black Livesだと『黒人が暮らしている』じゃないかと思うんですよね、私の直訳だと『黒人が暮らしている事件(案件)』、少し意訳すれば『黒人だってこの国の住人なんだ』じゃないかと思うんですが……。
『黒人の命は大事』と訳した人はこの言葉を生み出した人にインタビューでもしたんですかね? 私の感覚では『黒人の命は大事』運動よりも『黒人だってこの国の住人なんだ』運動の方がしっくり来ますし賛同しやすいんですが……。

 しかし今のアメリカの状況を見ていますと『黒人の命こそ大事』あるいは『黒人の命だけが大事』に変質してしまっているように見えます。
 日本では無関心、と批判されましても、日本では黒人射殺事件などまず起こらないでしょうから『そんなこと言われてもねぇ』と言う感じです、しかし、だからこそ感情的にならずに、客観的に見られるかな、と言う気はします。
 警察政策学会・外国制度研究部会の『米国の治安と警察活動』と言うものを見つけましたので、資料として使わせていただきます、なお、2017年に書かれたものなので最新とは言えませんが、むしろ客観性と言う意味では良いかも知れません。

 まず、人口比です。
 これは上記資料になかったのでウィキペディアから引用しますが(2010年の数値)
 白人72.4% アフリカ系黒人12.6% アジア系 4.8% その他(主にヒスパニック)6.2% 残り4.0%は複数人種(おそらく混血でしょう)、先住民族などです。
(個人的に、アフリカ系黒人の比率が思ったより低いので驚きました)

 警察が関与した死者数の割合は。
 白人 50.7% アフリカ系黒人 26.5% ヒスパニック系 17.0%となっています。

 それぞれを人口比で割ってみると、白人1.0に対して 黒人3.0 ヒスパニック3.9となります、アフリカ系黒人の割合が高いことは事実です、ヒスパニック系の方が高いのも見逃せないと思いますが……。

 それと考慮しなければならないのは、犯罪率ですね。
 犯罪にもいろいろありますが、もっとも凶悪な犯罪として殺人で見てみますと。
 殺人犯の割合は、白人45.1% 黒人51.0% その他2.6%となっています

 殺人犯の人種比率を人口比で割って、白人が1.0になるように数字を整えると。

 殺人・傷害致死犯数 白人1.00 黒人6.53 その他0.97 となります。

 警察が黒人をむやみに多く殺しているという結果は見えて来ません。
  
 そして、こんなデータもあります、2014年のデータですが。
 全米の警察官総数 536,119人 内、襲撃を受けた人数 48,315人 負傷者数 13,854人 殉職者数 51人
 警察官の内、1年間で襲撃を受けた割合は9.0% 負傷者は 2.58% 殉職者は0.01% 
 これは2014年1年間のデータですから、30年勤めれば確率は単純に30倍になるとして計算すると、30年間では77%の確率で1回は負傷し、3%の確率で殉職してしまうことになります、襲撃に至っては270%ですから 3回近く襲撃を受けることになるわけです。
 
 これらからわかるのは。
 黒人が警官によって殺される確率は白人の3倍だが、殺人犯は白人の6.5倍いる。
 警察官を30年務めるとすると、2.7回襲撃を受ける可能性があり、在任期間中に負傷する確率は77% 殉職する可能性は3%ある。

 と言うことになります。
 どう判断するかはお任せしますが、私には警察が黒人に対して特に暴力的だとは思えません。
 もっとも犯罪率には貧困率もかなり影響すると思いますし、貧困率には人種差別も大きくかかわっていると思います。
 また、今回問題とされているのは『犯罪も犯していないのに殺された』というケースです。
 このような誤認は確かに大問題ですが、警察官は常に身の危険にさらされていることも見逃せない事実だと思います。
ましてアメリカは銃社会ですからね。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 とは言え、アメリカにおける黒人の大多数は、アフリカから強制的に連れて来られた奴隷の子孫です、奴隷解放宣言が出されて奴隷ではなくなってからも僅かな賃金でこき使われていた期間も長く、長年人種差別に苦しめられてきたこともまた疑いようのない事実です。
 その虐げられた歴史が、BLM運動の燃料タンクになっていることは理解できます。
 長年の不信や恨みはそう簡単に払拭できるものではないでしょう。
 当事者ではないので確たることは言えませんが、そう推察することは難しくないです。

 つまり、私が言いたいのは。
・人種差別をなくそうと言う運動は大事だし、これからも続けて行く必要がある。
・しかし、『黒人だから警官に殺されたんだ』と言うのはちょっと当たらないのではないか。
・それを発端として起こったBLM運動は行き過ぎてはいないだろうか。
 と言うことです。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 冒頭に書いた大坂なおみ選手は、ミシェル・オバマ前大統領夫人からの祝福メッセージを受け取ってはしゃいでいます。
 別に大坂選手に文句付けようと言うんじゃありません、嬉しいと思うのは自由ですから。
 でも、多分、メラニア・トランプ夫人はメッセージを出したいと思っても出せないでしょうね、メラニアさんに限らず白人はすべからく。
 そんな空気じゃなかっただろうと思います。
 彼女が二年前にセリーナ・ウィリアムズ選手を破って初めて全米オープンを制した時、観客席からはブーイングが起こり、彼女は『皆が望む結果でなくてごめんなさい』と涙を流しました。
 その時とはずいぶんな違いですね、彼女のファンが増えたと言うだけならば良いのですが、マスクのことが大きく取り上げられているのがどうも腑に落ちません。
 メッセージそのものは『黒人を差別しないで』と言うものだと思うのですが、それを過度に持ちあげることによって逆差別的な空気を作り出しているように思います。
 あの会場で『スポーツに政治的メッセージを持ち込むな』と叫ぶ勇気がある人はいたでしょうか? それが白人であった場合は特に。
 おそらく身の危険を感じるんじゃないかと思います。
 実際、『Black Lives Matter』と叫ぶ黒人に対して『All Lives Matter』と言い返した女性が射殺されたと言う事件もありましたし。
 結局、『Black Lives Matter』は『黒人だってこの国の住人なんだ』でも『黒人の命も大事』ではなく『黒人の命だけが大事』と言う意味なんだな、と考えざるを得ません。
 
▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 少し話が逸れると思われるかもしれませんが、こうしてアメリカで白人、黒人の対立が起こると誰が得をするんでしょう?
 おそらく大統領選挙には影響が出るでしょうね、オバマ前大統領を産んだ民主党から立っているバイデン氏に有利に働くでしょう。
 アメリカの国力も削がれるでしょうね、国内で対立が起きれば経済にも悪影響が出るでしょう。
 軍事力にも影響が出るかもしれません、黒人を危険な任務に就かせることははばかられるでしょう、軍の内部で対立が起きたらそれこそ戦になりません。
 
 アメリカが弱体化することを望んでいる国……私にはいくつか思い浮かびます。
 火種そのものは間違いなくアメリカで起こったことですし、燃料を抱えていることもアメリカの問題でしょう、ですが、火種に風を送っている国があるように思えてなりません。
 
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