第4話 少女が望む青春①

文字数 1,419文字

 翌月曜日、こずえは普通に学校へやって来た。これで、俺はようやく安心することができた。

 休んでいたことを問われるこずえを遠巻きに眺め、耳をすませる。どうやら、本当に風邪をひいていたらしい。
 何せ天才だ。頭を使いすぎるから、脳の疲労で免疫力が低下し、病気がなかなか治らないのかもしれない。まあ、それは俺の適当な憶測だが。

 彼女はこの日、何度か俺のことをチラ見した。気にするのは無理もない。俺もこずえが気になるが、目が合いそうでなかなか見られなかった。

 放課後になると、彼女はそそくさと帰り支度をし、教室を出ていった。俺は勇美に用がある旨を伝えると、こずえを追いかけた。

 我らが通う長居高校は、JRも地下鉄も近いため、電車で通学する生徒が多い。でも俺は少数派であり、徒歩で通っている。
 こずえも俺と同じ少数派らしく、駅を通り過ぎて、公園のほうへ歩いていった。それは俺の通学路でもあるコースなので都合がよかった。

 長居公園は、スタンドのある競技場が三つに、植物園や博物館まである大きな公園だ。
 その周回コースは、毎日ジョガーで溢れている。道が広いし車も入ってこないため、俺はいつも公園を通って高校まで歩いていた。彼女も同じなのだろう。

 こずえは、一人公園内の歩道を進んでいく。俺はすぐ追い付ける位置にいるが、どこで呼び止めるかで悩んでいた。

 サッカースタジアムの方向へ進むと、石垣沿いにベンチが設置されている。目の前に囲いがあり、その範囲の地面には、複数の穴が開いている。ここは過去に噴水だった場所だ。人が入ってよく故障したからか、いつ頃からか水が出なくなってしまった。今や廃墟である。

 ちょうど今はひと気も少ない。俺はこの辺りで声を掛けてみることにした。 

「こずえちゃん。……こずえちゃんっ」

 ボリュームを上げた二度目の呼び掛けで、彼女は振り向いた。

「さ、沢渡さん!?」

 こずえは見るからに動揺していた。まさか、追いかけられているなんて思っていなかったのだろう。しかも、一〇日前に一悶着あった相手と来たら、何も考えずに「逃げる」コマンドを選択したくなるものだ。

 俺が小走りで追い付くと、こずえは一歩後ずさりしながらも、ちゃんと向き合ってくれた。

「ちょっといいか?」

 俺がベンチを指さすと、こずえもそちらに視線をやり、意味を理解した。

「は、はい……」

 こずえがベンチの前まで行くと、俺も横並びに立ち、ほとんど同時に腰を下ろした。
 さあ、どう切り出すか。まずは彼女の状態を探る必要がある。何でもないならそれでいいわけだし、こちらには都合のいい質問があった。

「風邪はもう治ったのか?」

 チラッと表情を窺うと、こずえは顔を赤くしていた。まだ熱があるように見える。

「はい。……いえ、実は風邪でおやすみしていたんじゃないんです」

 一度肯定したものの、こずえはそれをすぐに覆した。風邪以外の理由なら、やはりこの前のことがきっかけだろうか。

 クラスメイトには風邪と言ったのに、俺に訊かれたら風邪じゃないと答える。つまり、彼女は俺に理由を訊いてほしいのだ。
 まあ、元々この前の話をするつもりだったし、訊いてみるしかない。

「じゃあ、どうして休んでたんだ?」
「…………」

 この前のことが原因だとすると、この訊き方はデリカシーがなかっただろうか。俺はそれほど語彙力を持っておらず、回りくどい言い方が得意ではない。
 言葉選びに悩んでいると、こずえから話し出してくれた。
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登場人物紹介

沢渡虎太(さわたりとらた)


主人公。自称『世界一普通の高校生』だが、変な人間を引き寄せる特殊な性質がある。質問魔であり、気になったことはすぐに訊いてしまう。それゆえ、奇妙な思考を持つ変人を引き寄せている説もある。

周りの評価としては虎太も変人だと捉えられているが、ことルックスについては自他ともに認めるほど普通である。

星名こずえ(ほしなこずえ)


10歳でありながら高校へと飛び級入学した天才少女。屋上で虎太に告白したことから、虎太と親しくなる。

大人しく、自分から人に話しかけることは少ないが、こと恋愛については積極的。気を遣う性格をしているが、虎太にだけは心を開いている。

八神愛守(やがみあいす)


虎太と同じ高校一年生でカメラ少女。学校内でも有名人であり、カメラと言えば八神愛守と言われている。

明るく人当たりが良く、とてもモテるが、本人はロリコンの傾向があり、幼い少女が好き。特にこずえがお気に入りで、半ストーカーのようなことをしていた。

加東優(かとうゆう)


虎太と同じ高校一年生。モデル体型でスタイル抜群の美女だが、中身はおっさんで大飯ぐらい。男女共に性的な興味を持つが、特に清楚な女の子を好む模様。虎太からは欲望の塊のように思われている。子どもには優しい。

勇美とは何かと好対照でセット扱いされる。そのため、勇美のことは気にかけているらしい。

都築勇美(つづきいさみ)


高校一年生。虎太、優と仲が良く、特に虎太とはほとんど行動を共にしている。いわゆる男女(おとこおんな)で本人も気にしている。そのため、自分と対照的な優、自分を受け入れてくれる虎太に心を開いている。

お菓子作りが趣味。

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