第5話 機転

文字数 554文字



 突然、羊の男は二人に胸ぐらをつかまれた。

「おい、お前! 助けてやったと思ってるな? 結局、俺たちは死ぬ運命だ。それなら獅子が戻ってきた所を三人で襲いかかろう。丘の上にちょうどいい納屋がある。あそこで待ち伏せだ!」

 まもなく遠くから乙女の悲鳴が聞こえた。

 三人の目に戻ってくる獅子の姿が見えた。手に血まみれの棍棒と乙女の心臓を持っていた。

 このままだと自分も殺され、さらに心臓も持ち帰れないだろう。羊の男はこっそり納屋から抜け出すと、鼻息荒い獅子の前に出てひざまずいた。

「雄牛と牡山羊の男が旦那を殺そうと、あそこで待ち伏せしています!」

 獅子の男は怒り狂って納屋の扉を蹴り開けた。

「お前らの殺す順番を決めてやる!」

 借金取りは納屋の脇に転がっていた古い天秤を取り出し、天秤皿の両側に二人を放り投げた。

 天秤は雄牛の方に傾いた。すぐに断末魔の悲鳴があがった。羊の男が身震いしている間に、もうひとつ小さな悲鳴が響いた。

 このまま見ていたら羊の男も殺されてしまう。逃げ出そうとしたその時、道の向こうから水瓶を持った射手が歩いてくるのが見えた。

「射手の旦那! 心臓はあそこにいる獅子の化け物が持ってます。やっつけてください!」

 射手の行動は素早かった。すぐさま納屋へと飛び込むと、巨大な矢で借金取りの胸を撃ち抜いた。

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