家内食堂

文字数 341文字

 うん、この味この味。こーゆーのが食べたかったんだよ。
 ……お袋の味、っていうのかな?
 飾らないけど素朴で手が込んでて、どこかほっとする懐かしい味だ。
 まあ、うちのお袋は随分クチうるさい人で――ぼくには勉強しろ勉強しろ、親父には稼ぎが少ないって、上から目線の嫌な女だったんだけどね。
 でもあのころ食べつづけてたこの味だけは、絶品だったなぁ……。
 ――え、それでお袋はどうしたのかって?
 それがある日、夫婦ゲンカでカッとなった親父がうっかり。おかげでぼくと親父は後始末のために、それからぐんぐん料理の腕があがったものさ。
 そうそう、そういえば大将の奥方も、だいぶクチうるさいタイプだったみたいだね。
 なるほどなぁ、それでこの味ってわけか……うんうん。

〈肉料理、了〉
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