第24話  楓蓮はオマケ

エピソード文字数 4,124文字



 ※



そろそろいいかな?
見てみるか

 再びガラケーへ話題を変えると、ちゃんと電源が付いて起動しだした。


 これには全員の顔色がぱっと明るくなった。

わぁっ……ちっちゃい! これ。華凛ちゃん?
みたいだな。茶髪だし、ちんちん付いてる
もぉ~~! これ。いつの写メなの?
あっ。蓮もちっちゃい!
あぁ……これはアレだ。家の近所にあった海岸だな。ここでよく泳いでてんだ

 おいおいおい。懐かしい写真ばっかりだ。すげぇな。

 こりゃ昔の家の風景だな。この頃はまだ華凛もあまり覚えていないんじゃないか?

あっ……
おおっ。これ。聖奈だろ?
 その写メは楓蓮と聖奈が手を繋いでいた。


 二人とも真っ黒焦げになってやがる。

 着てる服は、前に夢の中に出てきた聖奈と一緒じゃねぇか。


 チェックのワンピース。ピンクと青。

 お揃いで親父に買って貰ったんだよ。


次は?
ん? どした聖奈?
 次の写メを催促する俺達だったが、聖奈はガラケーを閉じてしまうと、自分の胸に仕舞いこんでしまう。

本当に私は……あなたたちと一緒に居た。それが嬉しくて。


ご、ごめん。正直言うと、信じられなかった部分もあったの。


でも……この写メ見て……私は……

 聖奈……


 俺達と過ごした記憶が全く無いのならば、周りの人間からいくら言われようと、心の何処かで疑いを持っていたのかもしれない。なんせ自分自身が覚えていないのだから。


 きっとこの写メ見て、全てが真実だと確信したのだろう。


このガラケー。ちょっと貸して欲しい。ゆっくり。じっくり見たい
いいぞ。なんならお前にやるよ。いいだろ華凛?
うん! お姉ちゃんにあげる
ありがとう……私。ちょと泣きそう

 聖奈は聖奈なりに、忘れちまった自分を悔やんでいるのだろうな。

 

 こればかりは……本人にしか、そのつらさが分からない。 

なぁ華凛。他にもなんか無かったっけ?
う~ん。分からないけど、聖奈ねえちゃんが思い出しそうな物とか、探してみるよ

ありがとう華凛ちゃん。楓蓮……



 顔を上げない聖奈はガラケーを胸に抱いたまま震えていた。


 

 俺は華凛に眉を上げて指示する。抱っこしてやれと。


 指示通りに動いた華凛は聖奈をよしよしすると、早速抱きつかれてしまうのだった。

 ※


 その後も聖奈と華凛と話し合っていた。

 

 前にもこいつに話したが、入れ替わり体質のルールやメリット、デメリットなどをおさらいする。


 四時間制限の話や、リミットの危険性や、サイクルのスケジュールなど。

 その中でどうやって俺達が普通に暮らしているのかを説明してゆく。


 一人で二人の人間を演じているだけに、辻褄を合わせられるようにどのような対策を取っているか。などなど。




ふ~ん。なるほどね。大体分かったわ。

 頭の回転の速い聖奈は、答えを言う前に理解するという頭の持ち主なので非常に助かる。


 

 そんな時、聖奈はふとこんな事を言い出した。

ねぇ。ちょと気になるんだけど、今日のあんた。ちょっと雰囲気が違う気がする。


学校の時や、車の中で話し合った時と比べて……なんて言うのかな?


もっと優しいって言うか……そんな気がするの

そんな質問に首を傾げる白峰姉妹。
そうか? 俺は別にいつもと変わらんと思うが

 横でうんうんと頷く華凛。いつもと一緒だよな?


「お姉ちゃんいつもこんな感じだよ」と同意してくれる華凛だったが、俺はそこで思いついた。

あ、もしかして……俺達の正体を知ってて、こうやって話せるから。そうかもしれない
さっきと同じように頷く華凛は、俺の膝に座りだした。

もしかして今、女の子だからかな?

お姉ちゃんて、女の子の時はいつもよりもずーっと優しいんだよ

あー。華凛のいう事にも一理あるな。妙に優しくなれるっていうか……そんな気はする。
 姉妹で話し合ってると、聖奈も会話に入ってくる。

だけど何だか二人とも……兄弟って言うよりも、姉妹の方が似合ってる気がするわね。


本当の女の子みたいだし

 おいおい。何を言い出すんだ。

 まぁ今は本当の女の子だけどさ。

何でだよ。俺達は男だ。兄弟なんだって
何で? 姉妹でもいいじゃない?

 あー。そう言う事か。何となく分かってきたぞ。


 聖奈が言いたいのは、こういう事だろ?

いや、俺達は男なんだ。心の中ではそう思ってる
何でそんな決め付けてるの? 別に女の子って思ってもいいじゃない?
そりゃそうだけど……
違うんだよ聖奈。こうやって男と女と入れ替わる人間っていうのは、どちらかの性別を強く持ちたいんだ

だって普通の人間はもう生まれた時から決まってるだろ?


だから俺達も、普通の人間みたいに……せめてそう思いたい。そんな願望があってだな

 俺達は普通の人間みたいに……そういう憧れがあるもんなんだよ。

実際どちらでも名乗る事は可能だろうが……一つの性別に拘らないと、自分自身でさえも、男か女か分からなくなるだろう?


そうでも思わないと……実際やってられないんだ

 こんなこと。普通の人間には分からない悩みの一つなのかもしれない。


 そこまで言うと、聖奈はあまり納得していないようで「う~ん」と漏らした。

私なら拘らないわね。男としても、女としても居られるのなら、どっちでもいいじゃない。


男としても女としても、どちらも名乗るわね。

 こりゃ普通の人間には理解できないか。

 こればかりは仕方がないよな。


 一人の人間が男と女。二つの性別を名乗る事なんて……

 そんな器用な生き方なんて、絶対無理なんだ。


 実際、十五年間入れ替わり体質を体験してみりゃ分かるぞ。

でも……羨ましいなぁ。男と女。どちらとしても生きてゆけるなんて、人生二倍じゃない
ただし。さっきも言ったように、入れ替わりにはデメリットが多いし、人生二倍かもしれないが、使える時間は男女半分づつなんだぞ
それでもいい。私も男になりたいわっ

 やたらと悔しがる聖奈に、思わず華凛と一緒に笑ってしまった。


 昔っからお前はいつもそう言ってた。「男になりたい」って。






 しかし、なんていうか……


 こうやって普通の人間と、入れ替わり体質の会話を真面目にするのは初めてだっただけに、突拍子も無い質問が来るのは非常に新鮮だった。


 俺達にとっちゃ、男だと名乗っているのには全然違和感が無かったが、普通の人間からすれば「性別を決め付ける」というのは異質なのかもしれない。



でもさ、楓蓮も華凛ちゃんも……女の子の方が絶対いいと思うんだけど
え? なんでだよ
え~? どうして?
思わず華凛とハモった。しかも同じように顔を傾ける。
だって二人とも……すっごい美人じゃないの。滅茶苦茶可愛いのに勿体無いわよ
え?

これには華凛と顔を見合わせるのだった。


そりゃ今まで可愛いやら美人やら言われた事があるが、俺達の正体を知ってて、更には女の方が良いなんて、聞いた事が無いからだ。

いやいや。俺達は男なんだよ。今までそうやって生きて来たんだから。


女である姿はただのオマケみたいなもんさ

は? オマケ?

そう言いながら聖奈の顔がすごい事になっていた。

そんなショックだったのか? 言い方が悪かったか。

あんたたち。自分の顔。鏡で見てるの?
そりゃ見てるさ。顔洗う時とか。な? 華凛
うんっ!

すると聖奈の顔が引きつっていた。


何をドン引きしてんだよ

それだけ綺麗な女の子なのに……
やたらブツブツいう聖奈に困惑していると、急に俺の前に顔を持ってくる。
いい? 楓蓮。あんたさ……正直言うけど
は、はい……

私が思うに……すっごい美人なのよ。

私よりも……ううん。あの白竹さんよりもずっと綺麗だわ。


それ……分かってるの?

今度は俺がアホ顔になっちまった。

は? んな訳ねーだろ? 言いすぎだって。


俺が……本物の女に勝てるわけ無いって!

え? あんた……それ。分かってないの?

何必死になってんだよ! 普通に考えてみろ。


どう考えてもお前や白竹さんの方が可愛いに決まってるだろ?

 クソ真面目に言いやがって。


 ってか、俺が。俺如きが、聖奈や白竹さんよりも美人だって?


 ふ、ふふっ。笑っちゃうじゃないか!

私は聖奈お姉ちゃんの方が綺麗だと思うよ。ね?

そうだぞ。お前の方が俄然美人だし、可愛いし


俺みたいな雑魚が相手になんねーって

雑魚ってあんた……


そんな事ない! あんた達の方が……

いーや。認めん! 俺達なんて女とは名乗れない体質なんだよ。


聖奈の方がずーっと可愛いもんさ。仮に誰かに言ってみろよ。すぐに答えが分かるって

 怪訝そうな顔を見せる聖奈に「絶対お前の方が美人だって」と念を押して言ってやった。


 そう言い切った瞬間、俺は気がついた。



 

 しまった。調子に乗って……

 とんでもない事言っちまった……


 本人の前で「可愛い」やら「美人」とか連呼しちまった事に。


 だが当の聖奈は恥ずかしがるような素振りも見せず、何かに失望してそうな顔になっていた。



あんた本気で……


その顔で……可愛いとも何とも思ってないわけ?

ある訳ねーだろ?

まぁ……ちょびっとだけ。ほーんの少しだけは可愛いとは思ってるけどさ

 あっ。言っちゃった。

 自分で自分を可愛いって言った事に猛烈に恥ずかしくなってしまう。 

嘘でしょ……
唖然となる聖奈に、俺達は再び首を傾げるのだった。
だけど……聖奈お姉ちゃんのが絶対美人だよ

そうだぞ。普通に女優として通用すると思うけどな。


芸能人とかにスカウトされてもおかしくないだろ。

…………
 ってか。何で聖奈はそんなに驚いているのか、俺や華凛には理解不能だった。


 俺達はごく普通の一般常識を踏まえて答えたつもりだったが、違うのだろうか。 


 その時、聞きなれないアラームの音が聞こえると、聖奈は自分の鞄からスマホを取り出した。

ごめん。もう行かなきゃ……

 時間なのだろうか。


 まぁ今日はたっぷり話せたし、聖奈にも俺達の事を少しでも理解してくれたのだと思うと、とても嬉しかった。

でも……あんた達兄弟って面白いわね。ふふっ!

 急に笑い出した聖奈に、俺達姉妹はハテナマークを出したが、全く意味が分からなかった。


 俺達の顔を見渡してからもう一度笑い出しやがって。




 まぁでもなんていうのかな。

 笑ってる聖奈を見てると、こっちまで笑顔になっちまうのは、やはり……




 俺達の事を知ってても尚、付き合ってくれる。

 そんな仲間が増えたって事なのだと思った。




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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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