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エピソード文字数 3,388文字

 有人火星探査船が前人未到の火星の大地に到着した。
 一年弱の航路の末、火星滞在は一週間。その後、また一年弱かけて地球へと戻る予定だ。
 今回NAXAが選出したメンバーは五人。すべて男性である。
 火星探査チームのリーダーはジャック。学生時代にフットボールで鍛えた体と、大学のクラブ(フラタニティ)でもトップをはっていた人物だ。
「おい、ギリー! ビークルのブレーキが壊れたぞ! 明日の朝までに直しておけよ」
「OK。見ておくよ」
 ギリーはエンジニアとして突出した才能を持っているため火星探査チームへと抜擢された。
 ギリーを見出したのはジャックである。
 ジャックは統率力の他に人の才能を見抜く力にも優れている。優秀な人材をいち早く自分の陣営に取り込むことで数々の業績を上げてきた。
「危うくクレバスへ突っ込むところだったぜ。どうせ突っ込むなら女のクレバスの方がいいけどな。
 おいギリー、マーズ(ワン)のアップデートは終わっているのか?」
「できてるよ。試してみるかい」
「OK! じゃあ、さっそく彼女と二人っきりにさせてくれ」
 マーズ1とは火星探査船に積まれた慰安用ラブドールである。姿かたちは人間そのもの。しかも若い赤毛の女性だ。
 マーズ1は元々は女性型サイボーグだった。ボディの持ち主の脳が老衰で亡くなったため、中古で売られていた。NAXAが慰安用ラブドールにするために、脳の替わりに電子頭脳を詰め込み、最小限の反射が行えるようになっていた。
 ミッションが無い暇な時間、ギリーはマーズ1の電子頭脳に新しい行動プロトコルを追加する作業をしていた。
 最初は、ほぼ寝たきりのマグロ状態だったマーズ1だが、ギリーのおかげで色々なことができるようになってきた。
 今回、ギリーが組み込んだ動作は騎乗位である。
「おぉ、こりゃいい。楽ちんだ」
 ジャックが喜んでいる。
 マーズ1の腰の動きが激しくなると、マーズ1がジャックの首を掴み、締め始めた。
「このアマ! 何しやがる!」
 ジャックがマーズ1を投げ飛ばした。
「おい! ギリー! どういうことだ! マーズ1がおかしくなったぞ」
「すまないジャック。複雑な身体を操作するんで難しいんだよ。やっぱり人間の脳みそほどは上手くいかないね」
「危ねーからパワーを出せないように調整しておけ」
「了解。念のために危険な行動ができないようにサブコンピュータの方に制御を入れておこうか」
「そうしてくれ。明日のミッションが終わるまでに直しておけよ! 直ってなかったらお前のケツにぶち込むからな!
 それと、マーズ1の感度もっと上げておいてくれ。不感症の女とやってるみたいでイマイチだ」
 ギリーはジャックのことを嫌っていた。自己中心的で、威張ることしかしない。常に自分が正しいと思い込み、他のクルーを見下している。
 なによりギリーが嫌がっていたのはジャックの武勇伝である。
 ジャックは何かと女と寝た話しかしない。同学年の女子半分とやったとか、クラブのパーティに誘い込んで薬を使って眠らせて犯したとか。そんなゲスな話ばかりである。
 警察沙汰になったレイプ事件もあり、州知事である父親の力で無かったことにしている。噂話ではなく本人が喋っているのである。
 なによりギリーが一番嫌なのは、レイプした女性が自殺したのを笑い話にして何度も語ることだった。その話を聞くたびに、ギリーは胸糞が悪くなっていた。
 腕力、権力、財力のため、ジャックに逆らえるものは誰も居ない。

 火星での二日目の船外活動を終え食事の時間。またジャックの武勇伝が始まった。
 ギリーや他のクルー達も苦笑いをして聞いていた。
「ギリー、マーズ1の調整はできてるんだろうな」
「あぁ、パワーは普通の人間の半分くらいしか出せないし、補助コンピュータの抑制機能を強化して、人間に危害を加えなくしておいたよ。あと、前からの要望だった命令服従機能も追加しておいたよ。これで人工頭脳にある行動プロトコルなら口で命令するだけで実行させることができようになったよ」
「オーケー! グッジョブ!」
 ジャックはマーズ1を連れて自分の部屋へ入った。
 マーズ1はチームの所有物であるが、いつも使うのはジャックが一番最初である。
 他のクルーはジャックが使用した後を綺麗にしてから使うことになる。

 火星滞在三日目に事故が発生した。
 強烈な砂嵐が探査船を襲い、崩れた積み荷にジャックが下敷きになってしまったのだ。
 ジャックの半身は潰され、かろうじて残ったのは上半身右側と頭だけ。心臓を含む身体の臓器はことごとく潰れ、脳に血液が回らなくなるのも時間の問題だ。
「おい……ギリー、早く……助けろ」
「おぉー、ジャック……もう手遅れだ……」
「何でも……いいから、どうにか……しろ」
 今あるここの設備を使って何かいい手を感がなければ。ギリーが一つの決断をした。
「ジャックの脳を取り出して、マーズ1へ移そう」
 医療キットにより摘出手術が行われ、無事にマーズ1への移植が成功した。

 ジャックが目を覚ますと医務室のベッドの上だった。
「ん? どうしたんだ俺は? 確か船が揺れて積み荷が崩れて……。
 ウップス! 何だこの身体は!?
「気がついたかいジャック。君の身体はもう死んでしまったんだよ。
 今、その身体はマーズ1のものさ。
 鏡を見てみろよ。なかなかの美人だぜ」
「オー! ジーザス! ……だけど、脳が残っていたのは不幸中の幸いなのか……」
 落ち込んでいるジャックを見て、微笑んでいるギリー。
「サイボーグになったとは言え、身体は動くし、頭も鮮明だ。ミッションに戻ろう」
「何を言ってるんだい? さっきも言ったじゃないか、ジャックは『もう死んでしまった』と。
 クルーのみんなも悲しんでいたよ。もちろんみんな表面上だけだけどね」
「なっ……いや、大丈夫だ。オレの口からみんなに説明する」
「無駄さ。補助コンピュータの抑制機能を強化したって言ったよね。自分がジャックだっていうことを人に話すことも抑制されてるからね。
 みんなもまさかマーズ1にジャックの脳みそが入っているなんて気が付かないよ」
「ギリー、お前!」
 マーズ1の手がギリーの首を掴もうとするが身体が固まって動かない。
「だから言ったろ。抑制機能を強化したって。ジャックが命令したことじゃないか」
「シット!」
「汚らしい言葉遣いも抑制した方がいいね。あとで調整するよ。
 それと、ジャックの指示でマーズ1の感度も上げておいたので」
 そう言うと、ギリーはマーズ1の胸を触った。
「あぁ……」
 激しく反応するマーズ1。
「どうだい、気持ちいいだろ?」
「あぁ……やめ……」
「これからお前は毎日クルーの慰み者として過ごすんだ。今まで手にかけてきた女の子の気持ちを知れ!」
「!?」
「お前が話していた自殺した女の子の名前を憶えているか?」
「……いや、忘れた」
「だろうな。覚えていたら僕と同じ名字に何も思わないわけないもんな」
「ギリー、お前……あの女の……」
「兄だよ。ようやく復讐の時が来た。
 NAXAに入ってお前と同じチームに入るのは大変だったけど、やっと報われたよ。
 まったく、お前の運の良さには呆れるよ。これまで何度失敗したことか。
 どうだい、犯す方の立場から犯される方の立場になった気分は?」
「やめろ! ……やめてください。お願いです。やめてください。あぁー……」

「ギリー、今度の更新スゲーな! マーズ1がすっごくリアルな人間みたいだな。
 でも、必死に抵抗するのを犯すシチュエーションも背徳的でいいけど、ちょっとやり過ぎじゃない? なんか可哀想になっちゃうよ」
「あぁ、そうだよな。それが普通の人間の反応だよな。
 OK、マーズ1を喜んでエッチするビッチな性格に変えておくよ。
 それで双方ハッピーだよな」
 地球への帰路、ジャックは毎夜クルーの性処理をする道具となった。
 地球へ到着する頃にはマーズ1の中の人格はすっかり壊れてしまい、人形のようになってしまった。
 その後、マーズ1は中古屋に売られ、今はどこかのラブドール風俗店で稼働しているらしい。

(了)
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