シスターウルフの恋人 7/17
文字数 2,228文字
先程手榴弾を投げ付けた傭兵は銃弾がエリスに通用しないと見るや、やや長めのフルサイズの自動小銃の先端に銃剣を装着した。無謀にも白兵戦を挑もうというのだ。
銃剣が真っ赤に発光する。鉄板も容易に貫く灼熱の輝きのヒートタイプ銃剣だ。
傭兵が銃を大きく振りかぶり銃剣をエリスに突き立てようとした瞬間、男の身体が爆発した。腹から胸にかけての大部分がすっぽりと消失している。
未だ元の位置の空中に浮かぶ上半身には、何が起きたか理解できてはいまい。
エリスが右手にぶら下げていた犬の頭を、男に向け手首の力だけでノーモーションで投げ付けたのだ。超絶的な速度とパワーで飛んだ頭は傭兵の身体を貫き、遠くの太い庭木の幹を粉砕し、塀にめり込みようやく停止した。男の後方に体内の内容物のすべてがぶちまけられた、長く続く赤い帯状の道を形成して。
身体の中心部分を完全に消失した傭兵の上半身が垂直に落下し、下半身と合体したのち前のめりに倒れ込む。地に落ちた小銃の銃剣が未だ虚しい輝きを放ち続ける。
仲間の悲惨で壮絶な最期を目撃したもう一人の傭兵は、絶叫を放ちながら軽機関銃を狂ったように乱射する。大声で恐怖心を払拭させているのだろう。逃げ出さないのは一流のプロの証だが、獣人化兵に
フルオート射撃により排莢口から排出される大量の薬莢、分離され飛ぶリンク。陽光で鈍く輝く金色の薬莢が激しく宙を舞う。消炎器と銃口から長く伸び続ける発射炎。大量の連続射撃で赤く焼ける銃身。
男が撃ち続ける姿は眼前の敵を倒すというより、もはや撃ち続ける事が一秒でも長く生き延びられる、それが唯一の方法であると信じ込もうとしているかのようにも見える。
だが、その望みは絶たれる。左手で犬の背中を掴んでいたエリス。猛射を浴びながら右手で犬の後ろ足を二本まとめて掴み直す。
獣人化兵の強靭な足の筋肉が生み出す爆発的なパワーで大地を蹴り、一瞬で傭兵の目の前に到達する。
聞き取りがたい何かを叫びながら、なおも闇雲に撃ち続ける傭兵。大上段に振りかぶっていた犬の身体が暴力的に振り下ろされ、一気に男の頭頂部から足元までを粉砕した。
傭兵の身体は手足以外、もはや原型が何だったのかよく分からない物体と化していた。潰れた白と黒の人造筋肉から突き出しはみ出すひしゃげた金属パーツ。電子回路と配線コードと金属パイプ。あらゆる物が複雑に混じり合う醜悪な塊。滲み出すのはオイルと循環液ばかりで血液は少量だ。この傭兵は脳以外はほぼすべてが機械化されていたようだ。
エリスの耳がぴくりと動き、振り向きざまに右の廻し蹴りを放つ。
蹴られた物体が不規則な回転を生じさせながら弧を描き、地上に落下して爆発し大地をえぐった。
離れた位置に一人の傭兵がいる。肩に担ぐのは四連装のロケットランチャーだ。
エリスはランチャーの発射音を聞き取り、高速で飛来したロケット弾を一瞬で蹴り飛ばしたのだ。
二発同時に放たれるロケット弾。白い二条の噴煙の尾を引きながら迫る必殺の凶器。
それが空中で同時に爆発し、オレンジ色の二つの火球となった。限界まで膨れ上がった火球はすぐに消滅し、黒煙だけが天へと昇る。
二発のロケット弾はエリスの小さな鉄球により撃ち抜かれて消えた。
最後の一発が発射される。エリスの姿が霞んだ。
彼女は高速で飛来するロケット弾の側面を伸ばした右手で掴んでいた。そのまま素早く一回転して投げ返す。発射速度よりも速い速度。それは軽く音速を超えていた。
投げ返されたロケット弾は傭兵の厚い胸板に突き刺さると同時に炸裂し、上半身を跡形もなく吹き飛ばした。自分自身が放った武器により倒された傭兵。上空に舞い上がった彼の細かいパーツが辺り一面に降り注ぐ。
その時上空からエリスに向かって重い弾丸の雨が降り注いだ。芝生に着弾した大口径の弾丸が大地を掘り返し、無数の黒土の塊を噴き上げる。
集中砲火を浴びたエリスはたまらずその場に膝をついた。
この弾丸は戦車の上面装甲をも貫く威力を有する、大口径のガトリング砲から発射されたものだ。
上空に静止しているのは、ダークグレーに塗装された全高四メートルほどもある軍用の
爆炎と爆風を巻き上げ、地響きと共に地上に降り立つ強化装甲。空になった背面の大型弾倉と右腕のハードポイントに装着されていたガトリング砲を、重い金属音を放って切り離した。毎分3900発で発射されるガトリング砲では、20秒とかからず全弾を撃ち尽くしてしまうからだ。
エリスが起き上がる。
「ほおー、こいつは驚いた。30ミリ弾の猛射を喰らって生きているとはな」
強化装甲内のパイロットは感嘆の声を上げる。
「こいつはただの獣人じゃなさそうだ。俺を楽しませてくれるのかい?」
心底楽しそうな声で呟き笑顔を見せる。
「じゃ、いくぜっ」
強化装甲の両足の側面と