第17話  煌香展Ⅰ

文字数 989文字

『煌香展』は真夏に行う書道展だ。

何故この全てがくたばりそうな季節にやるのか甚だ疑問だが、随分昔からこの市で開催されているらしい。

私と田神さんは生徒15名を引率して市民ホールに向かった。
朝から暑い日だった。
そんなのずっとそうだから、今更何だと言いたいが、それでもクソ暑い日だったと言いたい。
そんな中、生徒を引率して書道展。・・・

涼しい会場内が天国に思えた。
ホールに着くと私は集合時間だけ告げて、後は子供たちを野放しにした。
大丈夫。書道部の子供達はとってもおりこうだから。

引率者二人はロビーに坐ってのんびりおしゃべりをした。おしゃべりに飽きると二人して出展された作品を見て回った。

 小筆できっちりとそしてびっしりと書いた楷書の字の並びを見て感心した。
「写経ですかね。どうやったらこんなに均等に書けるのでしょ?」
墨の濃さも、字の大きさも均等でそれがアリの行列みたいに並んでいる。人が書いたとは思えない。でもやっぱり機械の筈はないからやっぱり人が書いたのだなどと、解釈とも言えない解釈をして納得する。

そうかと思えば、模様にしか見えない作品もあった。
二人して軸の前に立って、これは文字なのか模様なのか、それとも記号なのかと首をひねった。文字だったら何て書いてあるのだろうか。・・・書道に関しては田神さんの知識も私の知識も五十歩百歩だった。

暑い中、元気におしゃべりをしながら歩く迷惑な中学生を注意する気力もなく、私達はホームベースの駅に着いた。
 駅で解散をして、田神さんが時計を見た。
「宇田ちゃん。これから、昼どう?俺、この後休暇なんだ。」
「おっ。いいですね。行きますか。私も休暇です。」
田神さんが学校へ電話を入れて、『煌香展』見学が終了して解散したこと、この後宇田と田神は休暇を取ることになっていることを伝えた。

「何がいいかな。鰻なんてどう?冷えたビールと鰻。」
田神さんが涎を垂らさんばかりに言った。
「鰻かあ。・・それよりも中華の点心でビールはどうですかね。」
うん。それもいいなあ。
氷温ビールを出すところがあるからそこにしようとか、黒ビールと普通のビールをハーフで割ると結構イケるとか、どこの店のホッケは旨い。ホッケは産地によって肉の厚さに差があるとか・・、兎に角あそこの生ハムアボガドサラダはお勧めとか、・・・・二人で涎を拭いながら幸せな妄想に浸って歩いて行く。

ああ、もう早く飲みたい。
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