11:クエスト3 弦斗の家でみんなと遊ぼう!

文字数 3,786文字

 そのまた土曜日、GROSKの五人はあるところに集まっていた。
 弦斗(げんと)の家である。家、といってもマンションなのだが。

「……今開けるね」

 エレベーターで五階に上がり、律歌(りっか)がインターホンを()す。ほぼ聞き取れないほどの小さな声の応答があった。
 ドアが開いた。

「おじゃましまーす」
「弦斗んち、久しぶりー!」

 はしゃぐ律歌に弦斗が険しい目で「シー」と言う。

「……静かに。近所の人にうるさいって言われちゃうから」
「そうだった、ごめん」

 とたんにひそめ声になった律歌。
 そっか、マンションだとそういうことがあるよね……。

 廊下(ろうか)を進んでいくと、とても清潔感のあるリビングにたどり着いた。物がいっぱいあるせいで散らかりがちな、私の家とは大(ちが)いだ。

「……みんな、好きなやつ選んで」

 弦斗は冷蔵庫から、五百ミリリットルのペットボトルを五つ取り出して、ダイニングテーブルに置いた。
 カラメル色のものと、透明(とうめい)な色のものと、ぶどうのパッケージのものは炭酸飲料らしい。あとはオレンジジュースとりんごジュースである。

 よかった、炭酸じゃないやつがあった……!

 私は炭酸の刺激(しげき)が強すぎて苦手なのだ。飲めないことはないが、刺激に()えるために顔をしかめなければならない。
 かたや志音(しおん)はというと。

「みんな、(おれ)これいい?」
「「「いいよー」」」

 女子三人で同時に返事をしてオッケーを出したのは、ぶどうの炭酸飲料だ。
 やっぱり志音はこれだよね。カラメルのやつよりも、志音は断然こっち派って言ってたし。
 真っ先に自分の好きなものが手に入った志音は、明らかに上機嫌(じょうきげん)である。

「うちはこれにする」
「……律歌はこれがいいんだよね」
「弦斗が覚えてくれてた! うちが前にちょっと言ってたの覚えてた!」

 ぼんやりしているようで、意外と人の話は聞いてる感じかな。
 ともかく、律歌はそっちなんだね。透明(とうめい)派かぁ。

 じゃあと、私と琴音(ことね)一緒(いっしょ)に飲み物を選ぶ。炭酸でないものはオレンジかりんごのみだ。どちらかといえば……こっち!
 私はオレンジジュースのボトルをつかみ、琴音はりんごジュースのボトルをつかんだ。

「あれ、こっちゃんも炭酸ダメなの?」
「そもそも刺激のあるもの全般(ぜんぱん)が好きじゃないんだよね」
「じゃあ(から)いやつも?」
「そう、だから給食のカレーが辛くて辛くて」

 私とはちょっと違った。炭酸はダメだが、辛いものや苦いものは大丈夫(だいじょうぶ)なのだ。給食のカレーは(あま)く感じる。

「弦斗くん、オレンジの方いただきまーす」

 一応本人にはそう伝え、フタを開ける。おぉ、甘いにおい。味も砂糖のような甘さ。果汁(かじゅう)三十パーセントだからか。まあ甘い。
 弦斗が、残ったカラメル色の炭酸飲料をプシュっと開けて一口飲み、テレビとソファーの間にあるテーブルに置いた。

「これ飲みながらオルビスやろうぜー」

 志音が呼びかけると、そのテーブルの周りにみんなが集まった。だ円のテーブルを囲むように、私たちは(ゆか)にペタッと座る。
 志音から一組のコントローラーを受け取り、ディスプレイを自立させ、『オルビス・ナイト』を起動した。





 五人は、フリーモードのニュー・オルビスシティーで、対戦ができる『マッチセンター』の前に集まった。

「今日はどうする?」
「これやらない?」

 琴音が提案したのは、ローカルプレイのみで遊べる、ローカルマッチだ。

「それだときれいに分かれられんよ?」

 しかし私たちは五人で奇数(きすう)なので、分かれると二人と三人になってしまう。このような時は人数調整のために、CPUという仮想プレイヤーを入れることもできる。

「でもCPU入れられるよ」
「CPUってうちとか弦斗と比べたら弱いんよ」
「……それなら(ぼく)が二人の方に入る」

 あまり乗り気でない律歌があれこれ言っていると、弦斗が軽くため息をついた。
 うん、それでいいよ!

「そっか、弦斗がそっちに行けば済む話だったわ。それならやってもいい」

 律歌がうなずくと、みんな一斉(いっせい)にマッチセンターの中に入った。
 受付で、ローカルプレイの『親』である弦斗が申しこみをしている。……と、何かが私たちの周りをぐるぐる回り始めたのだ。

「なにこいつ」
「さあ?」
「うちらのこと、挑発(ちょうはつ)してるように見えるんだけど」
「なんかいやだね……」

 首をかしげる私たちに弦斗も気づいた。

「……あぁ、ただ僕たちにスキンを見せつけたいだけだよ。ほっといて」

 ……え? まぁ確かに課金でしか買えないようなものばかり着てるし。だが、ただの目障りでしかない。

「これ、他の人にもしてるのかな?」
「……しょっちゅうしてる。会ったことない?」

 このように挑発する人……確かにいたかも。

「……毎日のようにスキン買って見た目変えてるから。この虎帝(こてい)っていう人」

 名前までは見てなかったので分からなかった。同一人物ってことか。

「って、弦斗まだかー?」
「……今組み分けで何回かやり直してる。あっ、きた」

 ローカルマッチのチーム分けは、ランダムで決められる。本来は、ランダムで毎回違うチームで()ち合いをするのが、これの醍醐味(だいごみ)なのだ。
 しかし弦斗の実力が圧倒(あっとう)的なので、公平にプレイできるようやり直している。

「やった、弦斗くんとおんなじ!」

 私のチームは弦斗くんとCPUと私。向こうのチームは律歌と琴音と志音だ。
 ルールは簡単、相手を全滅(ぜんめつ)させた方が勝ち。

『Ready……Go!』

 始まった瞬間(しゅんかん)、弦斗とは逆の方向に走り出した。画面の左半分に映っている場所に向かっている。そう、志音がいる場所だ。
 志音と画面分割をしているので、目線を少し変えるだけで相手の居場所が分かってしまう。もちろん、敵どうしが一番先に出会ったのは私と志音だった。開始からたったの五秒で。

「志音いた!」
「おらっ」

 あれから一週間でBランクに上がっていた私たちは、実力もほぼ互角(ごかく)だ。お(たが)い、HPが同じくらいのスピードで減っていく。私は後ろに下がり、近くの建物の(かげ)(かく)れ、志音の背後に(せま)る。

 姿が消えたと油断している志音に、後ろから連続攻撃(こうげき)をかました。

「やった!」
「……ナイス」

 作戦成功、(だれ)よりも早く相手を仕留めた。

「うわっ、何だよ今のー!」
「志音のことは誰よりもよく分かってるからね〜」

 私はそう返すだけに留めておく。志音と話している場合ではないからだ。いつ誰かから奇襲(きしゅう)攻撃をされてもおかしくない。

「はいCPUオッケー」

 Sランク間近の律歌が、あっさり仲間を(たお)してしまった。
 律歌くらいだとCPUでも簡単に倒せちゃうんだ……。

「あっ」という琴音の声と同時に、目の前にその本人が現れた。

 私はジャンプして建物に飛び乗ると、上から琴音を攻撃した。すぐにそれに気づいた琴音は、(たて)でうまく防ぎながら同じところに飛び乗ってくる。

 志音との撃ち合いのせいで、かなりHPを消費していた。自動回復してもまだ半分までしかできていない。反対に、琴音はほとんど攻撃されてないらしい。

「こっちゃん全然減ってない!」
「やった、チャンス」

 盾で何とか攻撃を防いでいるが、盾が(こわ)れてから新しいものを出すまでに一、二発くらい食らってしまう。ジリジリとHPがゼロに近づいていく。

「思ってたよりおとちゃんが強い……!」

 瀕死(ひんし)の状態で琴音と張り合っている中、弦斗と律歌は追いかけっこをしつつ、撃ち合いをしていた。

「何で弦斗のエイムがそんなに的中するん!」
「……ちょこちょこ動いても、動きが読めるからね」

 うわぁ、何かすごい高度な会話してるなぁ。と、気が()れたその時。

「おっ、二人とも見っけ!」

 律歌からの攻撃で、瀕死で頑張(がんば)っていた私はあっけなく倒された。

「律歌、ありがとう!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ、弦斗が来てる!」
「……二対一か」

 いくら強い弦斗と言えど、Sランク間近の律歌とAランク間近の琴音を相手するのは大変である。
 私が倒されてすぐに飛んできた弦斗は、やはり律歌と琴音に(はさ)み撃ちにされる。が、うまく二人からの(たま)()けて二人のHPを減らしていく。

「やっぱり、弦斗は強いな」

 (まゆ)をしかめる律歌。

「弦斗くん、頑張れ!」

 私は観戦モードで弦斗を応援(おうえん)するのみ。

 しかし、弦斗の目線から琴音の姿が消え、律歌は()げ出したのだ。もちろん弦斗は律歌を追いかけていく。
 えっ、どういうこと? 二人で一緒に弦斗くんを倒すんじゃないの?

 私が混乱している間に決着はついていた。なんと律歌がおとりとなり、後ろから琴音が奇襲攻撃を仕掛けたのだ。
 連続で弾が当たった弦斗はリズムを(くず)し、律歌からの弾も命中させてしまう。

 そのままの勢いで律歌&琴音が弦斗に迫り、とうとう倒してしまったのだ。

「よっしゃ、琴音!」
「やったぁ! 志音くん勝ったよ」
「俺はホントに何もしてないけど……」

 開始から一分もしないで私に倒された志音は苦笑いをする。

「……まさか、やられるとは」

 弦斗は(くや)しそうに固く口を閉じる。弦斗くんでもダメだったかぁ。

「やっぱり二人とも強いね」
「そんなことないわ! うちと琴音の攻撃、ほとんど防がれてたし」
「……これは僕の作戦負けだね。でも参考になったよ」

 そっか、確かに弦斗くんは私たちの中では圧倒的に強いけれど、作戦がうまくいけば弦斗くんのような人でも倒せるんだ!

 常に上には上がいると、目の前に途方(とほう)もないくらいの高い(かべ)が広がっていた。しかし、その壁に穴を開ける方法が見出せたかのような気持ちだった。
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登場人物紹介

名前:音葉(おとは)

コードネーム:メロディー

年齢:11歳(小学6年生)

性格:どんな人とでも対等に話せる、愛情深い

担当:アルトサックス、GROSKのリーダー

ジョブ:スタンダード


一人称は『私』。志音は双子の弟。北小学校。

アルトサックスがメロディーであり、体力テストでAとBの瀬戸際という理由でリーダーになった。

癖の強いメンバーをなんとかまとめている。

名前:志音(しおん)

コードネーム:オブリガート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:面倒くさがり屋、大ざっぱ、やるときはやる

担当:テナーサックス

ジョブ:スタンダード→スプリント


一人称は『俺』。音葉の双子の弟。北小学校。

適応能力が高く、反射神経がよい。

面倒くさいものは姉に押しつける。

名前:琴音(ことね)

コードネーム:ハーモニー

年齢:12歳(小学6年生)

性格:おっとり、気が利く

担当:ピアノ

ジョブ:スタンダード→ヒーラー


一人称は『私』。北小学校。

勉強ができて特に暗記が得意。学校1ピアノがうまいのでよく伴奏者になる。

常に周りを見ており、冷静。

名前:弦斗(げんと)

コードネーム:ビート

年齢:11歳(小学6年生)

性格:真面目、ぼんやり、聡明

担当:コントラバス、エレキベース

ジョブ:スタンダード→エイム


一人称は『僕』。西小学校。

学校1の頭脳を持つが、しゃべり始めるまでにラグがある。

ゲームの腕前はピカイチで、上位プレイヤーなら誰もが知っているほど。

名前:律歌(りっか)

コードネーム:リズム

年齢:12歳(小学6年生)

性格:とにかく明るくアネキっぽい、積極的

担当:ドラム

ジョブ:スタンダード→ワイド


一人称は『うち』。西小学校。

好きな芸人に影響され、エセ関西弁をしゃべる。

見境なく誰にでも話しかけるタイプで、GROSKの活気の源。

弦斗のいわば保護者。

名前:ラックス

コードネーム:コート

年齢:?

性格:正義感が強い、忘れっぽい

担当:情報収集、GROSK補佐

ジョブ:案内役(スパイ)


『オルビス・ナイト』をプレイすると一番最初に出会う猫のキャラクター。見た目は白猫でオッドアイ。

普段は案内猫としてプレイヤーをサポートしているが、裏ではスパイをしているという。

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