第3話 ミラボー橋
文字数 1,000文字
そして、幾多の詩と名画が残り、アポリネールの詩はシャンソンとなり、ローランサンの絵は名画となり、お互い時代の感性を何処かで共有しながら、そしてふたりは時代から通り過ぎていった……(感性の時代屋から)
男に戻った僕は盛大な拍手に迎えられた。パパも拍手していた。僕は弾き始めた。
祖父母が存命のとき、よくレコードがかかっていた。
『ミラボー橋』
なぜこんな長い曲を……詩を……
祖父母がよく聴いていた。幸せだった時代。
パパもママも僕も幸せだった。僕は詩を暗唱した。レコードと同じように。
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ
われらの恋が流れる
私は思い出す 悩みのあとには
楽しみが 来るという
日が暮れて 鐘が鳴り
月日は流れ 私は残る
手に手を取り 顔と顔を向け合おう
こうしているとわれらの腕の橋の下を
疲れた無窮の時が流れる
日が暮れて 鐘が鳴り
月日は流れ 私は残る
流れる水のように恋もまた死んでゆく
恋もまた死んでゆく
生命ばかりが長く 希望ばかりが大きい
日が暮れて 鐘が鳴り
月日は流れ 私は残る
日が去り 月が行き
過ぎた昔の恋は 再び帰らない
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れる
日が暮れて 鐘が鳴り
月日は流れ 私は残る
長い詩をパパと僕は少しも乱れず暗唱した。
続けてパパは歌った。フランス語で。僕には歌えない。会場の皆がパパの歌に聞き惚れ、僕は脇役にされた。
堂々として誇らしい父親。
幸せな家族。幸せな時代。それは確かに存在していた……
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