悪役令嬢
文字数 1,525文字
いつものことだが、面倒な仕事はやらないぞ!という態度の坂本マリアであった。
IT企業<カレイドスコープ>の上司であった飛騨亜礼が失踪してしまい、現在、巨大小説投稿サイト<作家でたまごごはん>の運営などをやることになってしまって、正直、面倒なことには関わりたくないのだ。
今日も無事、時が過ぎればそれに越したことはないという事なかれ主義だった。
やる気の全くない27歳である。
メガネ君はいつになく深刻な顔をしている。
運営の仕事と小説のゴーストライティング二本を抱えた仕事のしすぎの26歳だった。
その時、メガネ君の机にいつものミルクコーヒーが置かれた。
アルバイトの織田めぐみが軽く微笑む。
今日もかわいい20歳である。
しかも、彼女の入れるミルクコーヒーはスタッフの中では『魔法のミルクコーヒー』と呼ばれ、市販のインスタントものを使ってるにも関わらず、彼女がいれると絶品の味になるのだ。
ミルクとコーヒーの配合の黄金比率があるらしく、某名古屋の有名喫茶店で学んだらしいのだ。
メガネ君は最後まで言うことができなかった。
坂本マリアの返事の反応速度が音速を超えていたからだ。
「僕も全く根拠などないと思いますが、いつもの『サブちゃんねるの規約違反スレ』のやつらの論理では<悪役令嬢>は元祖である『お嬢様は悪役令嬢』(作者:神楽坂舞子)の作者に著作権があり、他の作品はいわば『二次創作』に当たるのでは?ということらしいです。『お嬢様は悪役令嬢』以外の『悪役令嬢』模倣作品の全削除を求めて来ています」
いつものように仕事を投げっぱなしジャーマンにしようとする坂本マリアだった。
ちなみに、プロレスだじゃれです。
といい終らないうちに、クルッと椅子を回転させてパソコンの方を向いてしまった。
何か真剣に打ち込んでいるようだった。
メガネ君がそっと後ろから覗いたら、『細川ガラシャは悪役令嬢』を更新中だった。
見なかったことにしよう。
ブックマーク40、ポイント234という微妙な評価な作品だったし。
まあ、100ポイント超えてるし、このサイトの底辺作家は卒業していて、上位20%に入ってるのだから立派なものである。
それはともかく、規約違反の通報メールはまだまだ来ていた。
メガネ君の苦闘は続く。