文字数 3,662文字


 そんな経緯を経て、嘘かホントかわからない膨大な情報を整理するところから作業を始めることになったわけだが。
 何事も継続が大事である――とでも言うべきか、いくつもの資料を見比べていく内に色々なことがわかってくるようになった。
 その中でも、まず第一に判明した事実が何かと言うと、魔王側が実施していた勇者に対する対応についてである。
 端的に言うと、勇者による被害が大きくなった場合は物量で圧倒するという手段を採っていた、というところであり。
 具体的に言えば、より多くの人員を充てて確実に葬る手段を選択し実行していた、ということである。
 その手段はあまりにも多岐に渡るため列挙はしないけれど、記録を見るだけでも当時の勇者がかわいそうになってくるものばかりだった、とだけは言っておこう。
 さて、始めに判明した出来事がそれかよ、そんなもの考えなくてもわかることだろう――などと言われるかもしれないが、情報としてそれが残っていることを確認できたという、その事実こそが大事だったりする。
 なぜなら、調べ続けていれば答えに辿り着けるという、そんな可能性を見出すことが出来るようになるからである。
 加えて言うなら、どんなものでもいいから何かしらの成果が出ないと作業を継続するやる気を維持するのが難しいからでもあるが、それはさておき。
 とは言え、こんな簡単なことがわかるまでに軽く一年くらいかかったのは大誤算だったと言わざるを得ないだろう。
 そして、そこから仕組みの肝となる部分に関する記述が見つかるまでに、更に一年ほどかかったのも正直辛かった。
 成果があまりにも出なかったせいで城に居る間は肩身が狭かったし、雑用という名の面倒事が最初の取り決め時よりも増えてしまったからである。
 まぁこれは身から出た錆というものなので、言い渡された雑用は粛々と片付けていきましたけどね。見通しが甘いと色んなところで苦労するということがよく理解できたが、今後に活かせるかどうかは微妙なところだろうなぁ。


 ――過去の苦労を思えば溜め息はいくらでも出てくるのだけれども、些末なことなので思考を中断する。
 話を前に進めるとしよう。


 とりあえず、そうやって時間をかけて長々と文字列と格闘した結果として、勇者選定における肝はふたつあるらしい、という情報まで辿り着くことが出来た。
 その内容はと言うと。
 ひとつは人間の側――私が住む地域、あるいは国、世界のことだ――にある道具によって、力のある誰かを適切に選択している可能性が高いということ。
 そしてもうひとつは、各世界――炎水風土の四つ――の要地に設置された施設のようなものが危機を人間側に伝達している可能性が高いということだった。
 道具および要地の候補については、資料や情報を得ることが出来たものの、信憑性という意味ではかなり怪しい部分もあった。
 もっとも、見つかった情報がこれくらいしかなかった以上はこれを元に動くほかない。
 ここまで来るとぶっちゃけ、それが本当であれ嘘であれ、自分が納得できればそれでいいと思っていた面はなくもないが。元々の発端がそうなので、方針はぶれてないからいいのである。
 そんなわけで、情報が確認できれば動くだけとなるわけだけれども。
 行ってみたけど実はそんなものはありませんでした、なんて無駄足を踏むのは誰だって嫌だろう。
 だから、情報が示す物や場所が実際に存在するかどうかの確認を、魔王側に全部やらせることにしたのは言うまでもないことだろう。
 調査というものはやはり物量が多い方が早く済む。そのための協力関係なのだから、使わなければ損というものだ。
 結果は思った以上にすぐに出た。
 道具の候補が存在する場所、要地の詳細についての情報がまとまって報告されてきた。
 つまり、ものは確かにあり。
 探し当てた情報は当たりだったということになる。
 そこまで確認できたのならば、後は本当に動くだけだ。
 要地への侵攻および破壊については国の利害が絡む関係上、行動予定や人員調達などのの調整を魔王側に任せることにして――考えるのが面倒くさいので押し付けたとも言うが――先に道具の破壊を済ませてしまうことにした。
 勇者を選定する道具類は、あるものは宗教的な象徴として、、あるものは国宝のような扱いで大事にされている一方で、ガラクタ同然の扱いで死蔵されているものもあった。
 総数は片手で足りる程度だったが、その半分以上が国の管理下にあるようだ。当然、その中には私を選んでくれやがった代物も当然含まれているだろう。やる気の出る話である。
 なにせ、本来ならそれを破壊するという作業は困難なものなのだろうが。
 私はなんだかんだで勇者になってしまったやつである。
 最初はただのモヤシみたいな役立たずだったが、厄介事を最後まで片付けた成果としてそれなりに強くなった。物量に押されると多少不利になる部分はあるけれど、大抵の相手は問題なく制圧できる。
 不確かなものを本当にあるのかどうか調べる作業に比べれば、軍隊相手に殴り合いでもしている方が今となっては気楽なものなのだ。
 やる気が出て当然だった。
 魔王の城に踏み込んだときのように、とりあえず最初は話し合いで挑戦してみてダメなら暴力に訴える方針にはしていたものの――当然ながら話し合いで済ませることが出来るわけもなく。
 そんな風に各地を回って無事に道具を全て破壊し終えた頃には、すっかり悪者となっていた。全世界レベルの犯罪者扱いだった。当たり前か。
 しかし大罪人という扱いに関して思うところは無かったが、この弊害としてひとつの問題が浮上してくることになる。
 道具が無くなってしまった代わりというように、立候補制の勇者制度が誕生してしまったのだ。
 どんなものかと言うと、腕に覚えのあるものが、私という大罪人を屠った際の莫大な報酬を目当てに集まり、蟲毒のように競い合って残った強者を勇者と認定するというものだった。
 ……いやまぁ、そういった制度が出来たことそのものは個人的には喜ばしいと思うところも無いではないのだが、タイミングが悪かった。
 次に控えた要地の破壊あるいは制圧の際に、大きな懸念となってくるからだ。どのタイミングでやってくるかわからない、それなりに大きな戦力というのは扱いが難しい。
 色々と魔王側とも話し合ったが、私のほうに止まる気がない以上は衝突を覚悟の上で実行するしかないということで、気持ち多めに戦力を融通してもらうことで話をつけた。
 そして、要地の破壊あるいは制圧を実行する段になった。
 政治的に有用な場所もあるということで、最低限の破壊で済ませて欲しいと言われてしまったが、それは私じゃなく相手に言うことじゃないかと思ったのは内緒である。
 記念すべき襲撃一ヶ所目には炎の世界を選んでみた。最初に行った世界なので、嫌な思い出が多い場所だからさっさと終わらせたかったのも理由のひとつではあるが――最も大きな理由はここが一番楽だと思えて仕方なかったからである。
 まぁ結局は回る順番もあったとは思うのだが。
 一番弱くて頼りなかった時期の自分に魔王への対処を依頼してくるような場所だという印象があったので、いきなり失敗するのも萎えるからそうしたというわけだった。
 結果としては、あっさりと制圧できて施設の破壊も無事に終えられたので、その印象に間違いは無かったと証明されたわけだけれども。
 懸念していた勇者一行と衝突することになったのは、襲撃二ヶ所目である水の世界でのことだ。
 何人かで隊を組んだ彼らの中には、私が勇者として旅をしていた際に一緒に過ごした顔もいくつかあったが、予想通りと言えば予想通りの出来事でもあったから驚きはなかった。
 戦えない無能の分の戦力をカバーできると認められるほどの実力者たちだったのだから、勇者選抜戦を勝ち抜けて当然だ。
 ただ、それらの顔ぶれの中に、私が唯一友人と呼んだ一人が居なかったことは最大の幸運だったと言っていい。
 なぜなら、こちらが負ける可能性がなくなったからである。
 よくよく考えればわかることではあるはずなのだが――各世界をたらい回しにされた時に最後まで残っていたのは、私とその友人だけである。
 それはすなわち、居なくなってしまった連中の分の戦力は私と友人で分担していたということに他ならない。
 ゆえに、そんな連中がいくら数を増えしたところで負ける理由がないというわけだ。
 こちらには魔王側の戦力も多少貸し出されていたのだから尚更である。
 それでも勝負というのは時の運が絡むものであるからして、危ない場面がまったく無かったとは言わないが。
 運が味方してくれたのか、決定的な負けというのを得ることは終ぞ無く――情報が揃ってから一年も経たない内に、道具と要地の破壊は完了したのだった。

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