第53話  俺だけのワンダーワールド 1

エピソード文字数 3,090文字

 ※


 華凛の騒動を終えた次の日。火曜日。

 この日は事前に告知されていたテストの日だな。


 俺は一応ちゃんと勉強してるので、補習対象ではないと思ってはいるが、こんな場面でシクれば……放課後の補習などに付き合う時間は無い。


 俺だって男の時間が長いといえども、帰宅時間が五時六時になれば、華凛と同じ目に逢うからな。


 なので俺の場合、絶対赤点など取ってはいけない。




 この日ばかりは遠方組も、クラスのみんなもあまり会話が無かった。高校で初めてのテストだからな。



 染谷くんも白竹さんも教科書やノートを確認したりと、テストが始る前までの追い込みを掛ける。



 俺も同じように教科書を見ていると、横にいる奴だけはいつもと同じように机に突っ伏していた。


蓮。二時限目の終わり十五分前に起こしてよ
え? 二時限の終わり? 一時限じゃなくて?
うん。それまで寝てるから、頼んだわよ

意味が分からないまま始業開始のチャイムが鳴ってしまう。

既に待ち構えた担任がテストを配り、一時限目の数学のテストが始まるのだった。


開始から十分ほど。

横にいる聖奈が机に突っ伏してしまった。


お願い。二時限の十五分前ね
こいつ。もう終わったのか?

ってか俺。まだ四分の一も書いてないんだけど。


まぁ聖奈と比べるのも何だと思い、自分のペースで問題を解いていると、その十分後だった。

今度は前の席の染谷くんも、ふぅっと溜息を吐いて机に寝転がった。


 

染谷くん。マジですか? 君ももう終わったの?


などと思っていると、斜め前に座る白竹さんのうめき声が聞こえてくる。

うぇ……ううっ

彼女はやたら苦戦してそうだな。 白竹さん。頑張りましょう。

こればかりは助けられませんが、西部と一緒に補習は受けない点数を取ってください。


 

 ※



一時限目の数学が終わると、今度は現国だな。


ちなみに聖奈が二時限目の終わりに起こしてくれと言ったのは、テストの時間など十五分ほどで良いらしい。


そして今、現国のテストが終わると、休憩時間となる。

ちゃんと書けたのか?
出来たわよ。じゃあ今度は英語のテストが終わる十五分前ね

 あぁ、そういう事か。英語のテストは四時限だ。



 つまりこいつは……

 二つのテストを跨いで、たっぷり寝るつもりなのだ。



 次のテストまでは起きておき、そこから四時限の英語のテスト時間ギリギリまで寝るって訳か。


   

 なんという余裕。というか睡眠欲というか……

美優。大丈夫?
あひ。な、なんとか全部埋め、埋めました。埋めましたよっ

 白竹さん? 目が泳いでますよ。

 何となくテンパっているような気がしますが。

染谷くんは楽勝みたいだね
う~ん。ちょっと間違えたかな。最後はちょっと曖昧な問題だったし

君も一時限目と二時限目は机で寝てたしな。

その笑顔の通り、余裕なのかもしれない。

やべーよ。マジで全教科赤点になっちまう!

真鍋。どうだった?

それなりに出来たよ。ちゃんと授業受けてれば分かるんじゃない?
やべぇ。マジやべーよ! ぜんっぜんわかんねーし
 そんな西部の悲鳴が聞こえてくる。

 今日だけ遠方組に絡んでこない彼を見てると、どうやらマジで困ってるらしい。

 

 下には下がいるというか……そういう西部を見てると、何故か心が落ち着くのであった。

 ※


 そんなこんなでテストを終えると、今日の授業は昼で終わりになる。



 あっという間のHRが終わると聖奈は「じゃあね」と言い残して一番早く教室から姿を消すのは、クラスでもお馴染みとなっていた。



「いつも早いよね」と染谷くんが言うと「そうだね」としか返せない。



 俺もその理由はよく分かってないし、聖奈も「色々ある」としか言わないので、言い難いことなのかなと思っている。

美優っ
 廊下から声を掛ける魔樹。どうやら白竹さんにもお迎えが来たようだ。
じゃあ黒澤くん。染谷くん。またね

 テストの時間の彼女は何処へ……

 そんな明るい表情に戻った白竹さんは、魔樹と一緒に下校する。



 その様子を見てから染谷くんと一緒に教室を出ようとすると、黒澤。と声が聞こえてきたので振り返ると……

黒澤ぁ……
くっろさわっ~

 あぁ。昨日のアレっすね。言っておきますから。

 だけど俺は「言うだけ」ですけどね。

黒澤くんどうしたの?
いや、昨日さ……

 この話は別に染谷くんにしても良いだろう。

 向こうからすれば、別に俺じゃなくて彼に任せても良かったわけだし。


 魔樹にもそんな女の子がいる事を告げると「そりゃあの顔じゃモテるっしょ」という軽い台詞で、すぐに終わってしまった。

できれば魔樹は誰かとくっ付いてほしいんだけどな。

楓蓮さんの近くに居ると言うだけで、気が気でないんだよマジで。


そういえば、昨日の手紙はどうなったの?
あ~あれね

 染谷くんはいつもの笑顔に変貌すると、俺に真相を教えてくれた。

 ちなみに魔樹の予想通りであり、その類の手紙であったという。

じゃあ本人に逢って断ったの?
うん。悪いけどさ……僕にはもう好きな人いるし
そっか……

 本当なら俺もその話を聞きたい所だが、万が一の地雷を踏む可能性があるので、あえてその会話に突っ込まなかった。


 もし。もし染谷くんの口から「楓蓮が好き」とか言われると、俺はきっと数週間寝込むことになりそうだから。



 その可能性は無いとは言い切れないだけに、この辺の話は怖かったりするんだ。と言うのも……



 染谷くんの好きな人は、魔樹や白竹さんは知っている気がするし、そうなればやはり……楓蓮の可能性が出てくる。


 ただし。一目惚れしたと聞いたのは、喫茶店に彼が来る前だったと思うし……

 いあ。もしかして何処かで楓蓮を見かけたのかもしれない。


 あぁ。あんまり考えるのは止めよう。

 まだ確定したわけじゃないし、全然見当違いかもしれない。


 この話は考えるだけで気分が滅入ってくる。



 染谷くんと一緒に下校して家に帰ると、まだ一時過ぎだった。

 一応凛にも連絡すると、今日はちゃんと返事してくれる。

大丈夫。まだ痛くないよ


 よし。いい感じだ。

 返事を貰ってホッと胸を撫で下ろすのであった。



 登校時間ギリギリまで華凛でいれば、学校が遅くなっても、リミット一時間までには家に帰ってこれる計算だ。



 

 さて今日は……こんなに早く帰って来たので、創作活動にでも費やそう。

 凛の面倒も見なくていいし、こういったゆっくり出来る時間は限られているからな。


 

 久しぶりのワンダーワールドへ旅立とうとパソコンを立ち上げる。

 そしてネットを開いた途端、思い出したことがあった。


今日は新刊発売日じゃねぇ?


  ※


 


 さて。俺が自称小説書きだと言うのは覚えているだろうか?


 といっても、堂々と言えるようなレベルではない。そこまで話したとは思う。


 しがない物書きゆえに、趣味だってそれに関連したものがある。


 同人誌というか、そういうのに興味があってだな。

 あぁ。話すのもはばかられる内容だが、好きなものはしょうがない。




 買いに行ってみようかな……



 

 同人誌を取り扱う店を検索してみると、一番近い場所で家から四駅ほどの場所にあるらしい。


 これは凛が帰ってくる前に戻ってこれるかもしれない。


 そう思うと善は急げと言わんばかりに着替えると、あっという間に準備が整った。


 入れ替わり体質ゆえに時間には敏感なので、こういうときの準備は早い。


 先週のバイト代もあるし、お目当ての同人誌だけじゃなく、他のも見て購入出来るかもしれないと思うと、やたらテンションが上がってきた。

よし。行こう

 と言う訳で黒澤蓮。ここに極秘プロジェクトを開始する。

 プロジェクト名はずばり。凛が帰ってくる前に同人誌の新刊を買いに行こう。というものである。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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