世界の最後にカレーうどんを。

エピソード文字数 832文字

 カレーうどんができるまでの五分間、あたしは壁時計の十一時五十五分を眺めていた。
 世界の最後には絶対カレーうどんを食べるって決めていたんだ。
 
 あたしのいる地球は、人間が多く生まれすぎて、そのせいで領土争いが絶えなくなって、それでアメリカとかロシアとか中国とかでっかい国が開発した「宇宙の不思議の(スペース・ワンダーランド)」っていう人工の「空飛ぶ島」が完成されてからは人間がそっちに行って、地上に住む人間の数はだいぶ収まったんだけど。

 うちの親は二人とも研究者で、地球の気温を平均に戻すための方法とか、そのほかにもいろいろ世界のために働いていた人たちだったの。でも忙し過ぎてね。ほとんど家にいなかった。あたしは働き蜂の親の子どもが通う、ちょっとリッチな施設に住んでいた。そこで仲良くなった男の子が、カレーうどんを好きだったんだ。お気に入りのカップ麺製造会社の「まるで生麺」がキャッチフレーズの、あれ。店で食べるよりもいいんだって。

 人間は、逃げる。どうしようもなくなったら逃げるようにできている。あたしはそれを卑怯だとは思ってなくて、種として繁殖し続けた結果がこれなら、また揺り戻しのように数が減ったりするんだろうなって思っていたから。

 あたしの好きな男の子の親と、あたしの親は、違うチームの研究班で、ライバル同士だったの。それで「世界のために尽力してくれた」理由で『スペース・ワンダーランド』に選ばれたのは、男の子の親の方だった。

 ……もうすぐだね。

 あたしは彼が好きだった。彼が選ばれたのはよかった。一緒に食べたカレーうどんの味、ちょっと塩辛かった。
 あたしがここで生きていたこと、彼があの場所で生きていること、お互い二度と会えないけど、本気だったこと。
 全部かけがえのない思い出だよ。

 十二時になった。

 じゃあね。カレーの汁は一度付いたらなかなか取れないから、お洒落な服で食べない方がいいよ。

 ……美味しい。

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