第35話 必定(5)

文字数 490文字

その日の夜。町の外れの廃墟を照らした月の色はホワイト・ゴールド。
語り尽くせない無限の神話を散りばめた夜空は、暗幕を垂らした様なミッドナイト・ブルー。
地に咲くカリフォルニア・ポピーは脇役である。
写真家を志す誰もが心躍りそうな空を、地面に横たわったシャビーの顔は見上げていた。
じっと、瞼を開けたまま、微動打もせず。
肩をよじ登ったアリが首筋を渡り、顎から鼻を目指す。一匹ではない。
何がどうなろうと、月を見つめるシャビーは、一ミリも動かない。
彼の時間は、止まってしまった様に見える。
対照的なのは、彼の周りで忙しく動く鑑識の群れ。今日、二度目の出動だが、動きに切れがある。レアなイベントに、微かに興奮しているのかもしれない。
シャビーの周りの土がワイン・レッドに染まっているのは、彼の体液のせい。
生きるために必要な液体がその役目を終え、彼の体に出来た穴から重力のままに流れ落ちたのである。
間もなく、シルバー・メタリックのセダンから降りたのはハンク。
保安官のハンクがこの地を訪れたのは、一人の若者が死んだから。
まだ二十二歳のシャビーエル・マイヤーズが、どこかの誰かに刺されて、死んだからである。
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