疑い4
文字数 1,374文字
○○〇株式会社 桐の夫が務める会社近くに訪れた。
大きく目立つ近代的な建造物。周囲を囲むカシ、ヤマモモの樹々。数多の従業員を抱える事を想像出来る広々とした駐車場。西日が厳しい夕暮れ。まだ多くの車がある事から退勤した従業員はまだ少ないことを予想する。梅雨独特の湿っぽさからか額に滲む汗と生ぬるい大気。
辺りを簡単に散策したが車両の出入り口は正面に位置する守衛室に面した通路のみといった導線。
人の目を欺いての車両の通行は困難な状況と思える。
数多く駐車した車両の中にはギラギラと存在感を放つ高級車が含まれているのも確認出来た。
その中に一際別の意味で存在感を露わにしているの車両を見つける。
丸みを帯びたクラシカルなボディライン、まん丸のヘッドライト、女性のなで肩を彷彿とするようなヴィンテージとも思える車両を見つける。
桐から得た情報によるとすればアレが桐の旦那の車だろう。 ナンバーをメモし車両の特徴を目に焼き付ける。
遠目でも分かるように何年も前の型落ち車ではあるが夕焼けに鈍く照らされたブラックのボディがつやつやと光沢を放つ。ホイール、タイヤに至るまで丁寧な磨きがかっている事からこの車には相当な愛着がある。桐の情報通り、物持ちの良さは他の流行り物に現を抜かす軟派な男ではなくこだわりと思いが詰まったロマンとアイデンティティを壮大に持ち合わせた男と想定した。
夕闇が訪れ始めた18時
一つ一つとオフィスの明かりが消灯し早々と駐車場に足を運ぶ社員たちが車へと乗り込んで来る。談笑を交えながら”また明日な、あーたまには肉でも行きてぇなー”と声を掛け合うネクタイをぶら下げた男達。”今度の金曜日は○○に集合ね。公務員揃いの男見繕ったからさ”スカートを翻しニヤリとほくそ笑む女達。
様々な日常が交差する各々のフリータイムが学生の下校時間さながらの浮足を辿った。
一斉にヘッドライトが駐車場を照らし始めた頃、一台のヴィンテージカーが黄色くヘッドライトを点灯させた。
古臭いエンジン音だけが耳に入る。今どき流行らないマニュアルを入れたギアの音が響く。
来た。この瞬間を待っていた。
出入り口、ぼんやりと欠伸をした守衛室管理人。
はす向かいに面したケヤキに隠れ一台一台、会社を後にする車両を無視し、ヴィンテージカーだけを注視。 その車は今にも壊れそうな排気音を旋律し、不精な髭を蓄えた男を夕闇へ送った。
赤く光るつぶらなテールライトが警告を示すような気がした。
あらかたの社員を見送ったであろうオフィスは真黒く不気味な、異形の形を模した怪物。
今後の調査方針を練る為にハイボールを手にた私はあの日、吐瀉物を散らした公園で物憂げに浸る。
今後奴はどこに向かうのだろう。あの車で向かうのはどこぞの女の所なのか。
いずれにせよいつも通り地道な調査が必要だ。例え彼女が不幸になったとしても。結果、桐が救われてしまわなければ彼女の想いが報われない。
2本目の栓を空ける頃。ザリッザリッと聞き覚えのあるテンポで公園の砂が刻まれた。
ぽうっと街灯の光で露わにした人影に目が冴える。冷たく、心の底で私を蔑んだ瞳、醜態を晒したあの日と同じじように。スクールバッグを肩にかけた女学生が目の前に現れた。
「うげ、ゲロ親父」
荒く尖った少女の言葉が私に鞭を打った。
大きく目立つ近代的な建造物。周囲を囲むカシ、ヤマモモの樹々。数多の従業員を抱える事を想像出来る広々とした駐車場。西日が厳しい夕暮れ。まだ多くの車がある事から退勤した従業員はまだ少ないことを予想する。梅雨独特の湿っぽさからか額に滲む汗と生ぬるい大気。
辺りを簡単に散策したが車両の出入り口は正面に位置する守衛室に面した通路のみといった導線。
人の目を欺いての車両の通行は困難な状況と思える。
数多く駐車した車両の中にはギラギラと存在感を放つ高級車が含まれているのも確認出来た。
その中に一際別の意味で存在感を露わにしているの車両を見つける。
丸みを帯びたクラシカルなボディライン、まん丸のヘッドライト、女性のなで肩を彷彿とするようなヴィンテージとも思える車両を見つける。
桐から得た情報によるとすればアレが桐の旦那の車だろう。 ナンバーをメモし車両の特徴を目に焼き付ける。
遠目でも分かるように何年も前の型落ち車ではあるが夕焼けに鈍く照らされたブラックのボディがつやつやと光沢を放つ。ホイール、タイヤに至るまで丁寧な磨きがかっている事からこの車には相当な愛着がある。桐の情報通り、物持ちの良さは他の流行り物に現を抜かす軟派な男ではなくこだわりと思いが詰まったロマンとアイデンティティを壮大に持ち合わせた男と想定した。
夕闇が訪れ始めた18時
一つ一つとオフィスの明かりが消灯し早々と駐車場に足を運ぶ社員たちが車へと乗り込んで来る。談笑を交えながら”また明日な、あーたまには肉でも行きてぇなー”と声を掛け合うネクタイをぶら下げた男達。”今度の金曜日は○○に集合ね。公務員揃いの男見繕ったからさ”スカートを翻しニヤリとほくそ笑む女達。
様々な日常が交差する各々のフリータイムが学生の下校時間さながらの浮足を辿った。
一斉にヘッドライトが駐車場を照らし始めた頃、一台のヴィンテージカーが黄色くヘッドライトを点灯させた。
古臭いエンジン音だけが耳に入る。今どき流行らないマニュアルを入れたギアの音が響く。
来た。この瞬間を待っていた。
出入り口、ぼんやりと欠伸をした守衛室管理人。
はす向かいに面したケヤキに隠れ一台一台、会社を後にする車両を無視し、ヴィンテージカーだけを注視。 その車は今にも壊れそうな排気音を旋律し、不精な髭を蓄えた男を夕闇へ送った。
赤く光るつぶらなテールライトが警告を示すような気がした。
あらかたの社員を見送ったであろうオフィスは真黒く不気味な、異形の形を模した怪物。
今後の調査方針を練る為にハイボールを手にた私はあの日、吐瀉物を散らした公園で物憂げに浸る。
今後奴はどこに向かうのだろう。あの車で向かうのはどこぞの女の所なのか。
いずれにせよいつも通り地道な調査が必要だ。例え彼女が不幸になったとしても。結果、桐が救われてしまわなければ彼女の想いが報われない。
2本目の栓を空ける頃。ザリッザリッと聞き覚えのあるテンポで公園の砂が刻まれた。
ぽうっと街灯の光で露わにした人影に目が冴える。冷たく、心の底で私を蔑んだ瞳、醜態を晒したあの日と同じじように。スクールバッグを肩にかけた女学生が目の前に現れた。
「うげ、ゲロ親父」
荒く尖った少女の言葉が私に鞭を打った。