頒布会で出会ったお隣さんが若すぎた

文字数 1,999文字

 
 180×45㎝って狭い。
 その真ん中に線を引き、初対面の出店者と机を半分こして一日過ごす。
 小心者の俺には高いハードル。ジャンルをころころ変えているから尚更だ。
 始発列車は苦にならないが、不安に悶々と揺られる道行きは何回経験しても慣れない。
 

「は、六年生? 小学?」
「はい○○小学校六年二組……」
「ストップストップ」

 開始時間直前に滑り込んで来たのは、ラメ入り髪留めを前髪にぶら下げた女の子。
 若すぎる、こっちは三十路過ぎのおっさん、話し掛けるだけで犯罪。

 しかしここは『ヒーロー・ロボット』ジャンル。
 小学女子は珍しい。

「ヒーロー好きなの?」
「いえ、別に……」

 警戒された。まぁしようがない。
 こちらも口を閉じる。

「あの」
「は、はい?」
「隣の人に本を渡して挨拶しなさいって言われた。こんなのだけど、あ、要らなかったらいい」

 遠慮がちに突き出されるホチキス留め冊子。

「勿論頂きます、有り難うね」
 子供から物を貰うなんていつ以来だ? ほんのり嬉しい。

「誰に言われたの? お母さん?」
「ううん、ケイちゃん」
「ん?」
「ともだ……同じクラスの子」

 貰った冊子を捲ると
「あ」
 既視感のある魔法少女戦士、手書きの文字もよく聞くキメ台詞。
(まずかないか? これ)
 本日のイベはオリジナルのみの二次創作禁止だ。
 教えるべきだろうか。いや、子供だし……

 迷っている間に反対隣の若い女性が声を掛けている。
「お嬢ちゃん、二次創作は禁止なのよ。他の冊子は?」

 女の子の荷物はこのコピー本と値札のみ、敷き布すらない。

「え、エッチじゃないでしょ?」
「出店規約は読んでいるわよね」
「ニジなんかじゃない、ちっともエッチじゃないよね?」

 小学生はこちらに振って来た。
 どうやら二次創作=エロ=禁止、と勝手に解釈しているらしい。
 女性は困った顔でこちらを見ている。


「えー、だから二次創作にもパロディ、オマージュ、考察と色々あって……」

 小学生は俯いている。
「マネッコがニジなんだ」
「ああ、うん、まぁ」
「だからケイちゃんは泣いちゃったんだ」
「?」

「私、最後までお店やらなきゃ」
 女の子は机上の冊子を引っくり返して表紙を隠した。
「そうしないと許して貰えないから」

「誰に?」
「ケイちゃん。キィちゃんとクゥちゃんも」

 登場人物が増えた。
 イジメ? 頒布会出店が罰ゲーム?
 しかし苛められるタイプには見えないが。

 前回の同イベ、同級生四人で出店する予定だったらしい。
「最初三人でそんな話していて。ケイちゃんを取られる気がして『私も入れて』って頼んだ」

 で、締め切りを無視し続けた。いつでも書けると思っていたし、友達だから幾らでも待って貰えると。

「二人が怖い顔するから小説書いた。ケイちゃんの王国で、あ、ケイちゃんは素敵な王国の話を幼稚園からずっと書いてて、私その王国が好きで、私の作ったヒーローがそこで悪者成敗する小説。ケイちゃん喜ぶと思ってサプライズで」
「……」
「それニジで禁止なのか。それで皆怒ったんだ」

 いや、二次創作以前に、絶対やっちゃいかん事だろ。
 向こう側で聞き耳を立てていた女性も、うへぇって顔をしている。

 それ以来仲間外れにされるようになった。 
「ケイちゃんまで居なくなるのが寂しかった」

 ああ、十二歳か、俺らが当たり前に知っている事でも、失敗だらけなんだな。

 彼女は頑張って、どうしたら許して貰えるかと聞いた。
『一人でこの頒布会に申し込んで一人で最後までやりきる事』と提案してくれたのはケイちゃん。
 成る程……

「申し込みとかチョー面倒で意味分かんなくて。ケイちゃんがこそっと助けてくれた。嬉しかった。本もちゃんとしたの作れなくて。でも中身さえ頑張ればコピー本でもいいよって」

 向こう側で女性が目を細めてウンウンと頷いている。

「その本持ち上げて」
 立ち上がって俺はテーブルクロスを机全体に広げた。
「こっちの本に紛れさせていれば、表に返しても目立たないよ」

 女の子は目を丸くして頷いた。この魔法少女はケイちゃんの推しだと聞いて、アニメを見て頑張って描いたらしい。

「ケイちゃんて幼馴染み?」
「やだ、ケイちゃんは女の子だよ」

 君にとっての幼馴染みという言葉は、今はそれだけなんだな。
 言葉にもっと沢山の意味がある事は、これから知って行けばいい。出来ればケイちゃんと一緒に。


 俺は席を離れる。
 目指すブースは場内の反対側。
 奴は振り向いて目を見張った。
「お、お久。中々会えなくて」

 そりゃそうだ。そちらのカタログをチェックしては、ブースの離れたジャンルを選んでいたからな。

「その、ごめぇん、お前の絵が好きだからつい」
「無断使用を好きだからで済ませられるのは小学生までだ。次は無いからな」
「分かったよぉ」

 こいつがこういう奴だと分かっているのに、向き合いもしないで切り捨てていた俺は、ケイちゃんの足元にも及ばない小学生以下だけれどな。




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