第7話 責任はとる

文字数 1,031文字

正人のスマホが鳴った。
優和からのラインだった。


優和「会いたい」


正人は大きくため息をつき、スマホを置いた。
返事を送り返さないことも考えたが、少し考えてから「送る相手、間違ってる」と連絡を返した。
すぐに既読にはなったが、優和から返事はなかった。



正人は大きく深呼吸をした。
そして先日あった出来事について思い出していた。
明美に、ちゃんと伝えられただろうか。
自信がなかった。



自分の子どもを持つことが正人の夢だった。
しかし正人は明美から妊娠したと伝えられた時、素直に喜ぶことができなかった。
父親になる自信をすっかりなくしていたからだ。
それは優和の子どもに対する罪悪感のせいだった。
父親をやめた。
正人にとって優和との離婚は子どもに対する裏切りだった。
それはいかなる理由によるものでも、正人にとって許されるべきものではなかった。
正人は明美のことを心底愛していた。
それは間違いなかった。
だからこそ、自分の身勝手な気持ちを優先したことが、父親としての自分にとって嫌悪に値するものだった。


それだけではない。
たまに送られてくる優和からの子どもについてのラインにだんだん興味を抱かなくなっていた。
先日子どもが胃腸炎になったと連絡がきたが、それすら2日後に送り返したのだった。
正人の「大丈夫?」という気持ちのこもっていない返事に対して、優和は何も連絡を返さなかった。
そんな自分の変化に、だんだん父親としての自信をなくしていった。
それは子どもに会っていないからだと自分に言い聞かせた。
だったら子どもに定期的に会うことで自分の父親としての気持ちを取り戻そうと思ったが、正直あまり気が乗らなかった。
人一倍、父親になることに憧れていた分、自分が父親不適合者ではないかという疑惑は許せるものではなかった。


だから明美の妊娠したという告白に対して、慎重に言葉を選んだ。
父親になり切れなかった自分が軽率に父親になることを許さなかったのだ。



「責任はとる」


やっと出てきた言葉は、まさに簡単には父親面を許さない正人そのものだった。
どんな理由であるにしろ父親になるという決意を貫き通せなかった自分を許せなかった。



明美の傷ついた顔が忘れられない。
それは自分への罰だと受け取った。
だから正人は何も弁解しなかった。
そのことによって、明美に誤解されざるを得なかったが、正人はそれでも明美のことを愛していた。
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