第5話 有効射程550m
文字数 1,490文字
いま2人がいるのは、蘭子の入った『アキバ絶対領域』から交差点の対角線上にある、オフィスビルの3階だった。
その窓から、しずかはスナイパーライフルを構えている。
窓は上げ下げ窓になっていて、今はほんの10cm程度のすき間で開かれている。
ブラインドカーテンも8割がた降ろしてあるので、外からはそう簡単に気づかれない。――もし気づかれたとしたら、大変なことにはなりそうだが。
しずかは、その窓辺で片膝をついてライフルを構えている。そんな彼女の背中に、カケルは辛抱強く声をかける。
カケルは、背後に首をめぐらせる。
ここはオフィスフロア。窓際で奇妙な行動をとるメイドと、彼女が心配でついてきたカケル以外は、普通に事務仕事にいそしんでいた。
孫娘のことを溺愛するあまり、遊園地を丸ごとひとつ作ってしまったこともあるくらいのジジ馬鹿っぷりで、だからしずかとも気が合う。
どうやら彼の一声で、このオフィスへの侵入が許されたらしい。
カケルはしゃがみ込んで、ブラインドカーテンのすき間から、アキバ絶対領域のほうを見る。
しずかのように照準器越しならばともかく、肉眼では、蘭子らしき人物が歩道沿いの席に座っている、くらいしか判別できない。
しずかは、カチャリ、とライフルを構え直して、
しずかの人差し指が、ライフルの引き金に添えられる。
殺気を立ちのぼらせる幼なじみの横顔を前に、カケルは祈るような気持ちで視線をアキバ絶対領域に戻した。