真相編

文字数 833文字

「陽高さん。平野の動機は、左遷だそうです」

 柊が現場を離れて、数分後のこと。敷地外にある歩道を歩いていたら、彼の後方で声が響いた。
 この声の主は、月城雪花。柊に援軍を依頼した、弱冠二十六歳の敏腕刑事だ。

「赤字転落による副社長の交代、つまり害者が自分の左遷を検討していると、ひょんな事から把握。彼は縁故採用――撤回させるだけの実力も実績もない為酷く焦り、そうさせないよう犯行に及んだようです」
「へえ、そうだったのですか。……随分と速い発覚ですね」

 柊は、ゆっくりと振り返る。常に冷静な両目に、確かな怒りを含んで。

「あの様子の犯人が、簡単に口を割るはずがない。今回の騒動、引き金を引いたのは貴方ですね?」
「ふふふ、何を仰っているのですか? お偉い様が裏にいて好き放題麻薬の売買や殺人をしている下衆共を見つけて、共倒れになるように仕組んだだなんて。そんな事はあるはずがなく、嘘の情報なんて流してませんよ」

 そこにあるのは、正義感と狂気。真反対の二つが混ざり合ってしまった奇妙なモノが、彼女にはあった。

「何はともあれ逮捕しにくい屑が死に、そうでない屑はたっぷりと情報を持って手中に来てくれた。おまけに追い詰められていた者は解放されて、万事解決です」
「……貴方が狙うのは真性の悪人であり、そこには必ず彼女のような人がいるため口外はしませんが――。もしも僕が相手のトリックを破れなかったら、無実の人間が酷い目に遭うのですよ? そろそろ、やり方を変えてはくれませんか?」
「申し訳ありませんが、無理な相談ですね。こういう結末にするには、コレが最適なのですよ」
「…………」
「それに。絶対に、そのような悲劇は起きませんよ。なぜならあたしは、名探偵に頼んでいるのですからね」

 雪花は自信と畏敬を込めて含み笑い、最後に不気味な微笑みを残して反転。身体の向きが180度変わる頃には雰囲気も180度変わっており、いつものように二人は別れたのだった――。
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