第4話

文字数 2,473文字

先日、学校の催しで親への感謝の気持ちを綴る機会があった。無論の事、私は毎日のように親に感謝の気持ちを伝えているが、こういう機会も悪くないと思い、精一杯私の想いをしたためた。

その手紙は後日保護者会にて、匿名で配布され、全ての保護者に生徒からの手紙の一覧が読まれた。私の母もそれを読み、私に、
「怜璃が書いたのってコレでしょ?」
と聞いてきた。かなり私らしさを出した文章にしたため、やはり分かったか、と思いながら母の指さす方を見た。

違った。

まあ、親でも間違えることはあるだろう。万能でもあるまいし。私は否定し、母はまた探し始めた。10分後、約5つの文章を私のものだと言い張った。全て違った。なんでだよ。
それでも親か!
と叫びたいところをぐっとこらえ、一つだけヒントを与えた。

それから5分後、ようやく当ててもらえた。
遅いわ!
と叫びたいところをぐっとこらえ、改めて自分の文章を見直してみた。
そんな問題の文章がこれである。

この世に生を受け、14年。大きな病気もケガもなく、健康に生きてきました。私が最も感謝していることは、何を隠そう素敵な名前を付けてくれたこと。本当に自分の子供にも付けてあげたいほど、この名前が気に入っています。願い通り、美しく聡明な子に育ってくれて、良かったですね。私の名前の元ネタである、ジョン・ウィリアム氏も光栄に思っていることでしょう。「継続は力なり」。誰がこんな余計なことを言ってくれたのかは知りませんが、これからも精進していきます。
それはさておき、感謝していることはまだまだあります。素直で良い娘でしょう。(あっ娘ってバレちゃった。)私が学校の課題に頭を悩まされている時、助けてくれること。これはとても有難いです。まあ私も助けられていますが、私の学力の向上を目の当たりにして喜びの涙を流し、感動に打ち震えることができるため、この関係はWIN-WINかなと思っています。母に勉強で頼ることは少ないですが、一緒に出掛けたり、話したりする相手には母が一番だと思っています。
一番の苦労人である貴女が最も分かっている通り、この家族、いやこの血筋の人間にはまともな奴がいません。そして残念なことに、私もその血を引いているのです。ぴえん。最たる例は私の父、そして私の叔父だと言えましょう。彼らが「普通」である部分は、限りなく0に近い、と私は思っています。それなのにも関わらず、まともな人間に見えるところが悪質ですね。おっと、話がずれましたが、まともでない人々をまとめ、適応している貴女は、この家族に不可欠だということです。本当にありがとうございます。たまにボケを発揮する、というチャームポイント(?)もありますが、それを差し引いたとしても、この家では十分「一般人」で「常識人」です。ストップウォッチを「よーい、ストップ!」と言ってスタートさせたこと、恐らく生涯忘れません。
まだまだある、とは言いましたが、時間と紙と私の体力には限りがあるのが自然の摂理です。素直で可愛いところがこの娘の良いところなので、気になる点が他にあれば、直接聞いてください。基本、嘘はつきません。基本は。ついていそうなときは汗の味で確かめてください。(元ネタ分かるかしら。)以上、チャーミングな長女でした。(急に言われても書けないと思っていたけど、意外にも書けるものですね)

...うむ。まあ感謝は伝わっているはずだ。確かに、多少はウケを狙ってそうな部分があったが、そこは愛で受け止めてくれるであろう。照れ隠しだと解釈してくれるかもしれない。まあ本当に恥ずかしいのは親に対してではなく、この手紙を読んでPCに入力した担任に対してだ。筆跡で個人が特定されることを防ぐため、PCでの入力だったのだ。思春期の少年少女の手紙を読んで打ち込むなんて無粋である。今度からは自分で入力できるようにしてほしい。
それはともかく、保護者会の翌日、保護者からの返事が返ってきた。ちなみに私は母の言葉を見た瞬間に気づいた。全く、優秀すぎるのも困ったものだ。その返事というのがコレである。

恐らく、自分の子供とは思えないと思ったことが300回はあったと思います。小学校からずーっとありえない行動に「信じられない!」の連発でした。しかし、今は日々成長していく姿をかみしめられて感謝しています。
有言実行、期末テストも宣言通り結果を残したね。素晴らしいと思います。勉強は100%放置ですが、まともな社会人になることだけを念頭に、ごはんは作っています。
今、ようやく同じ目線で話ができて、本当に楽しいです。ママの仕事の愚痴も聞いてくれてありがとう。いつか私の仕事も手伝ってください。
私と話す以上に、パパと仲良く高尚な話をしているのを見ると、嬉しいような、ちょっと寂しいいような気持ちにもなりますが、そんな時には、そちらの世界の人たちだと思うようにしています。そう、貴女はこちら側とそちら側の世界を行ったり来たりできる人になると思います。どんどん成長してください。
そしてお願いです。ママばかりお小遣いをねだらず、仲良しのパパにお金をせびってください。よろしくお願いします。

うむ...。この親にしてこの子あり、である。最後のお願いは本当に必要だったのだろうか。。。そして、一つだけ気になるところがあるとすれば、最初の「自分の子供とは思えないと思ったことが300回はあったと思います。」のところだ。「思います」の乱用である。「自分の子供だとは信じられないと感じたことが300回はありました。」で良かったと思うが、別に添削するためにこの文章が書かれたわけではなかろう。どうやら私は幼少期から母を驚かせてばかりいたようだ。そんなつもりは微塵もなかったが、この場合は私に自覚がないことが問題かもしれない。そして仰せのままに、今度からは父から頂戴しようと思う。

だが、子から親へ・親から子へ、気持ちを伝える機会など、なかなかないだろう。大人になればなおさらだ。皆様方も改めて、大事な人への感謝の気持ちを伝えてみてはいかがだろうか。

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