懐かしい人

文字数 293文字

しゃりしゃり

鳴る
土手の上の
ノスタルジア
足の裏に
空と剥離した
太陽を感じて
匂いのない川が
鳥のように
地面を這っていく
騒々しい下流の
伸びていく松の枝
その日の当たらない影に
私の実家はあった

水と水の表面張力のように
思い出の中のあなたは
私をいつだって溺死させる

懐かしい人
久しぶりの邂逅に
遠くに見える月が割れる
背中に張り付いた真っ赤な手形
それを見る度に
私はいつかの海を思い出す

懐かしい人
真夜中の虫にように
無意識に打つ寝返りが
夜空に浮かぶ魚を捕まえて
キラキラと光る鱗に
苦しかった過去を反射する

懐かしい人
死んだ兄を思い出すとき
どこからともなく鳴る音は
太陽が殺す影の音か
しゃりしゃりしゃりしゃりと
ああ涙の人
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