第2話 忘れ物

文字数 278文字

 仲睦まじい老夫婦のご主人が急病で身罷られた。
 葬儀はつつがなく執り行われ、納骨も済んだ頃、奥様はご主人に会ったという。
 その夜、奥様が休もうかと寝室に行くと、生前と変わらぬ姿でベットに腰かけていて、
「家まで遠かったでしょう」
 と、声をかけると、
「もう、そんなに遠くもないよ」
 と、答えたそうだ。
 少し、会話をして今日の用事は何か尋ねると、
「あれを忘れたので不便なんだ」
 と、自分の顔を指さす。
 奥様が「入れ歯」と「老眼鏡」を見せると、頷いて、ふっと消えた。
 次のお墓参りの時に持参して入れてあげたけど、その後出てこないのが少し残念ね。
 と、彼女は話した。

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