第14話

文字数 1,292文字

眠りにつこうとした時、家のインターフォンが連打された。
「あすみ!」
ドアを叩く音。

こんな夜に、こんな風に押しかけてくるのは、1人しか思い浮かばない。

「怜奈ちゃん…どうしたの?」

「こんばんは!遅くにごめんなさい!あすみに話が…」
お母さんに答えながら、起きてきた私を見つけて、怜奈はズカズカと上がりこみ、私の手をとって、外に連れ出した。

「痛い。何?」

高校に入ってからは、怜奈に会うのは通学のバスでだけだった。
話をするのは6年の時以来だ。

「…類が、明日町を出てく。」

「…え?」

あと3日くらいはこっちにいるはずだ。

「さっき、たまたまバス停で会ったの。本当は、今日の最後のバスで出てくつもりだったって。でも、あたしが引き止めた。それで、話を聞いたの。あすみが行かないなら、この町にいる意味はもうないんだって言ってた。…辛いだけだからって。だから、明日の始発には乗るつもりだって。」

そんな。明日、類に会いにいくつもりだったのに…。

「あすみ、どうするの?」

怜奈が、『あずみ』ではなく、本当に久しぶりに私を『あすみ』と呼んでいたことに気づいて、驚いた。

「本当は、こんなこと、あんたに伝えたくなんかなかった。あんたが類にふさわしいなんて、あたしは今でも思ってない。これっぽっちも。あたしは類の隣にいたい。今でも、あたしの方が類のこと想ってるって自信もある。…だけど、あたしじゃダメなんだよ!本っ当に悔しい!何で?って思ってる!それでも、類はあんたと生きていきたいんだって言う。…それが類の幸せなら、あたしはそれを叶えたい。あたしの方が、類の幸せを思ってるから!だから、行きなよ、今すぐ!」

息を切らして、一気にまくし立てると、怜奈は乗ってきた自転車にまたがった。

「後ろに乗って!」

「何で…」

「類の家まで連れてくから!」

「そうじゃなくて、怜奈には関係ないじゃない。私だって、気持ちは決まったけれど、まだ類に伝える準備ができてないんだよ。」

「ふざけんな!グダグダ言ってないで早く乗れよ!類がどんな覚悟であんたを迎えにきたか、考えたことある!?あんたはずっとここで、待ってただけじゃない!準備なんて…もう、今までに腐るほど時間はあったでしょ!類といたい、それだけでいいんじゃないの!?充分な理由じゃない!それ以上に強い理由が、あんたの人生にある!?言い訳するなよ!また類を見捨てるの!?」

最後の言葉にハッとした。

今、私が立っているのは、あの日…類が山で迷った、あの日の山の入口だ。

そしてまた、ここに怜奈と私、二人がいる。

「あんたがいつまでもそんな気なら、類がどう思ったって、もう関係ない!私が類をもらうから!」

言い訳をして、また類を手放す。
確かにそうだ。

「…わかった。行く。でも、乗ってはいかない。これはもう、私と類の人生だから。怜奈に借りは作りたくないの。」

「…わかった。始発だからね。」
そして怜奈は自転車をこぎ出そうとした。

「…怜奈!」

「何?」

「…ありがとう、教えてくれて」

「…類のためだから」

暗闇の中、走り去る怜奈を見送った。

不安定だった私の気持ちを固めたのは、悔しいけれど、怜奈だった。

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